セルバさん、遅いな
その週末、私は早速行動を起こした。
テールズに入るなり、エプロンを身に着け腕まくりする。
気合を入れて次々入る注文に元気よく対応しつつ、私はどきどきしながらどうお願いしようかと考えていた。
実はセルバさんに、また魔法をしっかりと習おうと思っているの。私の魔法の腕があがれば、レオさんがまた負傷した時にも、きっと対応できると思うから。
ただ、お願いしようとさっきから待っているのだけれど、セルバさんがなかなか来ない。
通常セルバさんってテールズで働く私を護衛するために来ているだけに、私がテールズにつくとそう変わらない時間に現れていたと思うんだけれど。今日はどうしたのかしら。
ついついチラチラと入り口を見てしまう私を見て、女将さんがおかしそうに噴き出した。
「クリスったら今日はえらくそわそわしてるねぇ、レオ坊はまだ帰らないんじゃなかったかい?」
女将さんの指摘に、思わず赤くなってしまう。なんだかちょっと恥ずかしい。
そんなに分かりやすくそわそわしていたんだろうか。しかも、そわそわしているイコール、レオさん待ちだと思われているのもなんとも照れくさい。
「い、いえ、違うんです。その、セルバさん、遅いなと思って」
「お、待っててくれたのかい? 冥利に尽きるね」
今度は入り口の方からからかうような声が聞こえて、振り返れば、件のセルバさんが疲れた顔で佇んでいた。
うわぁ、なんか顔が青いを通り越してなんだか白いし、くまがすごい。もしかして徹夜でもしたんだろうか。
「遅くなって悪かったね、少し仕事がたてこんでいて」
「少しって感じじゃないですけど……いつものコーヒーでいいですか?」
「うん、ありがとう。こんなのどうってことないよ、日常茶飯事さ。それでクリスちゃん、僕に何か用だったの?」
そう問われたけれど、疲れ切った様子のセルバさんに頼むのはさすがに気が引けて、私は言い淀んだ。
「あれ、どうしたの? 気になるじゃない、教えてよ」
「いえ……お願いしたいことがあったんですけど、疲れていらっしゃるみたいなので、また今度で」
「あれ? 僕、そんなヤバそうな顔してる?」
ちょっと目を見開いたセルバさんはうーんと唸ったあと、さらりと何か呪文を唱えた。
「わ」
キラキラと綺麗な光がセルバさんを包んで、一瞬で顔から疲労の色が消えていく。肌には血色が戻って色艶もいつもと同じくらいに復活したし、驚いた事に目の下の色濃いくまも消えてしまった。
「いつもはちゃんと疲労回復の魔法かけてからくるんだけど、面倒だったからさぼっただけなんだよ。逆に心配かけちゃったみたいで、悪かったね」