半年
「お前が一切あの娘に関わっていなかった事も含めて理解させ話し終えるには、もう少々かかるだろう。その間に、この半年の事を些少だが教えよう」
そうしてお父様に教えていただいた内容は、私にとっては驚く事も多かった。
まず驚いたのは、殿下と私の婚約が正式に破棄されたのが、つい数日前だということだ。
いくら殿下でも、国の最高権力者たる陛下のお決めになった婚約を勝手に破棄する権限はない。
『シナリオ通りだ』と1ミリも疑わなかったけど、言われてみればそれは何とも当たり前の話で…殿下の婚約破棄宣言も、公爵家当主でもない私がそれを受けたのも、実際は何の効力もなかったわけだ。
ただ、今回の顛末を経て、陛下もお父様もグレシオン様に新たな婚約者を選定し、決まり次第私達の婚約を破棄する事だけは決めていた。そしてつい先日、やっとグレシオン様の新たな婚約者がきまったんだそうだ。
「…グレースリア様ですか?ハフスフルール侯爵家の」
やっぱり、リナリア嬢じゃないんだ。
「なんだ、そんな顔をして。あの新米女狐が気になるか?」
「は…はい…」
ゲームのグレシオン様ルートのトゥルーエンドでは、学園に通いながら王妃教育を受け、立派な淑女となったリナリア嬢が他の攻略対象者全員に祝福されながらグレシオン様と華々しい結婚式を挙げるのがラストのスチルだった。
明らかにそんなラストにはなり得ないだけに、気になると言えば気になる。
「今は学園にはいない、とだけ言っておこう」
「えっ!?」
学園にすらいないの!?
「お前が学園に通わなくなった事で整合性が合わない部分を押し付ける相手に困ったのだろう、面白いようにボロを出し始めてな」
あのリナリア嬢が…。
「それでも男共があの娘を疑い切れんのでな、名目をつけて学園から引き剥がしたのだ。さすがにそれからは徐々に周囲の目や自分達の行動に疑問を持てるようになったのでな、殿下の新しい婚約が整ったこのタイミングで、お前と殿下には先に顛末を話す事となったのだ」
「そう…ですか」
「殿下が婚約破棄を言い渡した場にいたのは取り巻きの者だけだったのでな、明日その者達にもお前の冤罪とリナリア嬢の手管については話す予定だ。今なら聞く耳もあるだろう」
あの断罪の日、自分達の正当性を欠片も疑っていなかった彼等の冷たい目を思いだす。それが間違いだったと知った時、彼等は何を思うんだろう。