一番身近で守れるように
「うわ……!」
レオさんが目を見開く。そして、とても嬉しそうに眼を細めた。唇の端がやんわりと持ち上がって、優しい笑みが浮かぶ。
「これも、すごく嬉しいな。ありがとう、クリスティアーヌ嬢」
「喜んで貰えてよかったです」
幸せそうな笑顔を見ることができて、本当に良かった。こちらまで嬉しくなってしまう。
「細工も繊細だし、どんなクラヴァットにも合いそうだ。それにこの石、よくこんなに素敵な石が見つかったね」
指摘されて、頬が熱くなる。こんなに小さな、ささやかな石なのにやっぱり分かるものなのね。
「クリスティアーヌ嬢の瞳と同じ色だ。金色みたいに見える時もあれば、琥珀のようにも、少し緑がかって見える時もある」
ハワードさんが、私の瞳と同じ色のこの石なら、レオ様を一番身近で守っている気持ちになるでしょう、って勧めてくれたものだ。
「お、お守りがわりにと思って……」
「王城は魔窟だからね」
くすくすと笑って、レオさんは身に着けているクラヴァットをおもむろに外した。
私が贈ったクラヴァットとピンを慣れた手つきで身に纏い、「どう?」と訪ねるけれど、そんなのかっこいいに決まっている。
「とてもお似合いです……かっこいいです」
「ありがとう! クリスティアーヌ嬢が毎日見守ってくれるなら安心だ。さすがにクラヴァットは替えないといけないけどピンは毎日使うからね!」
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そう誓ってくれたけれど、レオ様は毎日あのピンを使ってくれているかしら。
レオさんが卒業してから、早いものでもう二カ月が経過しようとしている。学園はもう新入生を迎え入れて、新生徒会も忙しくも充実した日々を過ごしていた。
今日は学年始めの試験期間で生徒会のお役目も免除だったから資料室に来てみたのだけど、途端に寂しさが襲ってくる。
だって、以前だったらここでレオさんが「勉強、進んでる?」なんて声を掛けてくれていたのに。
いつもは忙しくてゆっくりと考える暇もないけれど、今日みたいに少し時間がある日は、どうしても寂しさを感じてしまう。
レオさんの仕事が始まるまでは私がテールズに行く日ごとに会えていたけれど、先週も、先々週も会えなかった。なんでも、遠方の村まで出かけなくちゃいけないんですって。
レオさんは基本は王宮で働いているけれど、紅月祭の時に地方との交易ルートを開発した功績を認められて、そういう仕事を任せられることが多くなっているんですって。
レオさんが認められるのは嬉しいけれど、交易ルートの開発って治安が悪いところに出かけていくわけだもの。前みたいに怪我したりしないか、とっても心配……。