レオさん、喜んでくれるかなぁ
「歌劇ってものすごく楽しいんですのね、見ている方たちがあんなに熱狂するの、分かる気がしますわ。それを見るのも新鮮でとても嬉しかったです」
「クリスティアーヌ嬢ならそう言ってくれると思った。見てる間は正直貴族も平民もなくってさ、みんなとにかく楽しそうだろ? この歌劇場はそういうところも魅力なんだよね」
「お食事も、とても美味しいです。さきほどいただいた山鳥の香草焼きも……ソースに食べた事のない味が混ざっている感じがするのですけれど、フレッシュで私、好きですわ」
「良かった。食事はまた別なところも検討はしたんだけれど、あんまりあちこち連れまわすのも疲れさせちゃうしね。明日はテールズなんでしょ?」
そういうこともちゃんと考慮してくれたのね、そう思うととても嬉しい。
「はい、明日はまた魔法を習うことになっているので、とても楽しみです」
「……俺も、行こうかな」
途端にレオさんが寂しそうに言うものだから、おかしくて口元に笑みが浮かんだ。
「笑わないでくれよ。君が心配なのもあるけれど、俺も城勤めが始まったら学生の時ほど自由には時間が取れないからね、今のうちにできるだけ一緒にいたいんだ」
「レオ様……」
はっとする。
そう、確かにレオさんの言う通りなんだわ。これまでみたいに学園で気軽に会えなくなるだけじゃない。きっと普通に会う事だってずっと難しくなる筈。
だってお父様が邸に帰ってくるのはいつだって深夜だし、私がまだ日本にいた頃ですら、共働きだったお父さんとお母さんが帰ってくるのはいつも夜の八時を過ぎていた。
土日は疲れ切っていて、お出かけして遊ぶよりも、体力回復に専念することが多かったくらいだもの。
レオさんだって仕事が始まれば、慣れない仕事の疲れがきっと出る筈だ。
「そう……ですよね」
「あっ、そんな悲しそうな顔しないで! できるだけ会いに行くから!」
慌てた様子でレオさんは必死に慰めてくれる。ふふ、相変わらず優しい人だ。
「はい、お待ちしております」
にっこり笑えば、レオさんは少しだけ赤くなって、目を逸らした。
「デザートも優しい甘さでとっても美味しい。レオ様、今日は本当にありがとうございます」
「……どういたしまして」
素直にお礼を言えば、まだ少し照れたような顔のまま、レオさんは律儀に返事を返してくれる。
もしかして、今かしら。
デザートもいただいて、ゆっくりとした時間が流れている。今ならすんなりとプレゼントをお渡しできるかもしれない。
急にドキドキしてきたけれど、これ以上のタイミングを思いつかないもの。帰りの馬車の中で渡したら、距離が近すぎて余計に緊張してしまいそうだし。
私は小さなバッグの中から、大切に持ってきていたプレゼントをこっそりと出してみた。
レオさん、喜んでくれるかなぁ。