すべてが感動の舞台
なんという熱気。
円形の劇場にひしめく人、人、人。私達が案内された場所は二階なんだろうか、舞台や他の観客席よりも高い場所にある、舞台を真正面から見下ろせる特別席。
でも、そこを中心に貴族席、一般席の区別はあるものの、身分も様々な老若男女が興奮を隠しきれない様子で集っている。誰もが出来る限りのおめかしをして、とても華やか。
「王都で一番有名だって先ほど仰っていたけれど、平民の方のほうが多いくらい、皆さん、とても楽しみにしていらっしゃるのね」
「そこも一番有名だ、っていう所以でね。俺が紅月祭の出し物の候補に挙げたのも、その姿勢に好感がもてるからだ」
「素敵」
「歌劇の質ももちろん一流だよ。ただねー」
レオさんが何か言いかけて口ごもった瞬間、場内がものすごい歓声で沸いた。
「すごい声……! なに?」
最初は耳が壊れたかと思ったけど、よくよく聞いてみると黄色い声とでも言うのだろうか、女性の熱狂的な歓声みたい。
「これだよ、学園に呼べなかった理由。ほら舞台を見てみなよ」
耳をおさえたまま、レオさんに言われた通り舞台を見てみたら、男性の役者さんが両手を大きく掲げては大きな動作で礼をしている。
円形の歌劇場のあちらへ、こちらへと大きな礼をするたびに、観客席からは割れんばかりの歓声があがる。
絶叫されている名前をよくよく聞けば、大人気の役者さんはどうやらレックスというらしい。
「あの役者さん……レックスさん? すごい人気ですのね」
「人気があり過ぎてね。評判の役者なんだけど、彼がくると紅月祭が収拾つかなくなるからね」
「納得です」
「クリスティアーヌ嬢、頼むからレックスに惚れたりしないでね」
そんなことを言って眉を下げるレオさんに、つい笑ってしまった。私にとっては、そんなレオさんの方がよほど魅力的に映るのに。
宮廷でのパーティーにも引けをとらない豪華な衣装、美しい歌や音楽も交えた素晴らしい舞台、個性豊かな役者たちのユーモアあふれる軽妙な芝居、そしてそれに引き込まれ熱狂する観客たちの表情。
すべてが私にとっては感動だった。
「素晴らしかったです……!」
歌劇鑑賞の興奮冷めやらぬまま、私たちは歌劇場の特別室……いわゆるVIPルームでお食事をいただいていた。
なんでも、高位の貴族や王族も頻繁に来ることから、専属のシェフも雇用されていて、こうしてお食事もできるんですって。つくづくサービスが行き届いている。
「楽しんでもらえたみたいで良かったよ」