老紳士の営む宝飾店
「えーん、怖くてお店の中を覗く気にもなれないよー」
ついにエマさんが泣き言を言ったところで、ちょうど件のお店についてしまった。
「あの、プレドールについたのですけれど」
私の言葉に、うつむきがちだった二人の顔がふっと上がる。そして、何度かパチパチと瞬きをして私を振り返った。
「ここ?」
「他のお店より、なんていうか、地味? ですねぇ」
「ふふ、落ち着いている、と言ってくださいませ」
「あ、それだわ。うん、なんか他より入りやすそう」
二人の反応も無理はない。他のお店より確かにこじんまりとしていて、ボディガード風の男性もいないし、何よりお店の中で忙しく立ち働く店員もここからは見えないから。
「どうします? お二人がちょっと入りづらいなら、私、日を改めることもできますし……他のものをご用意することもできますし」
二人のどぎまぎしている様子を見ていたら、無理して入店することも無いと思えていたのだけれど。
「いや、入りましょ、だって明日でしょう、レオ様と会うのって。今日決めなきゃ」
カーラさんが決意した顔で言う。
「そうですよ。それに、こんな機会でもないとこんな素敵なお店入れっこないですし!」
エマさんも、興奮したような顔で両手を握りしめている。
「ありがとう」
嬉しくてお礼を言った途端、まるで待っていたかのように扉が開いた。
「ええ、ぜひともお立ち寄りください、クリスティアーヌお嬢様」
優雅な立ち居振る舞いで、店主の老紳士が店内へと誘ってくれる。目尻の皺が優しくて、カーラさんもエマさんも夢見心地のような顔で店内に入っていった。
それにしても制服姿で立ち寄った私を一目で見分けて接客してくださるんだから、やっぱり商売を生業にしている方は凄いのね。ちょっと感動してしまった。
店内に入ると、意外な事にお客様は私たち以外には誰もいない。
夕方の穏やかな日差しの中で、とりどりの宝飾が静かに光を放っていて、どこか神秘的な印象を醸し出している。
宝飾の装飾がとても繊細だからなのかしら。この店の中だけ、まるで時が止まっているみたい。
「お二人は、クリスティアーヌお嬢様の、ご学友ですかな?」
老紳士は、品物を薦めるでもなく、なんといきなり私達三人を店の奥のほうに設えてあるソファに案内してくれた。彼が手ずからお茶を淹れ、可愛らしいお菓子まで目の前には並んでいる。
「はい、とても仲良くしていただいています。今日は二人とも、私の買い物に付き合ってくださっているんですわ」
「お二人とは初めてお会いしますな、私はこの店の店主でハワードと申します」
老紳士の優雅なあいさつに、二人はソファからバッと立ち上がってしまった。
「あのっ、カーラです!」
「エマです」
緊張した様子のカーラさんに続いて、エマさんがニコニコとあいさつする。エマさんの方が実は度胸があるのかもしれない。