プレゼントを買いに
「へえ、それでレオ様へのプレゼントを買いに?」
「私達で良かったのかしら。グレースリア様の方が、レオ様の好みって分かっていそうだけど」
卒業式から二日後、学園からの帰り道、私は下町に来ていた。
場所が場所だけに、貴族ではない方との方が気兼ねなく買い物できるかと思って、カーラさんとエマさんに付き合って貰って、レオさんの卒業祝いを買いに来たのだけれど。
あんなに楽しみにしてくれているレオさんに、いったい何を渡せばいいのか分からなくて、私は途方に暮れていた。
「グレースリア様は、追加のプレゼントなんかいらないって、相談にものってくださらなくて」
「確かに」
「だよね、クリスティアーヌ様の手作りのものだってだけで、全力で喜んでくれそうだもん」
二人が無邪気に笑い出す。グレースリア様にもまったく同じことを言われたけれど、そんなことないと思う。
みんなはレオ様の喜びっぷりを見ていないから……。
「あはは、そんな困った顔しないで」
「ちゃんと一緒に考えますよー」
きゃらきゃらと楽し気な笑い声をあげながら、二人はあっちの店、こっちの店を覗き込む。
「うーん、でもホント何がいいんだろうねぇ」
「やっぱりこの場合、形に残るものじゃない?」
「そーだ、ねえクリスティアーヌ様!」
カーラさんが勢いよく振り返る。彼女の明るい金色のポニーテールがくるんと揺れた。
「手作りした、元々渡す予定のプレゼントってどんなのなんですか?」
「あ、そうよね。被るのもなんだし。対で使えるものとかだといいですよ、たぶん」
カーラさんの質問に、エマさんもたたみかけてくる。
そうよね、それは聞くわよね、普通。仕方なく私は白状する。
「クラヴァットをご用意したの。白の、とても繊細で柔らかな布地で……シンプルでどんな服にも合わせやすい素敵な品なんですわ」
「ごめん、クラヴァットって何?」
「聞いた事あるかも。たしか貴族の男の人が胸元に巻いてる……スカーフみたいな感じのですよね」
「はい、エマさん。その通りですわ。レオ様はこれから王城でのお仕事が多いと仰っていたので、クラヴァットを身に着ける機会が多いかと思って」
実際お父様も毎日身に着けていらっしゃる。多分、ネクタイみたいな扱いなんだろう。
よく使うものがいいだろうと思って選んだプレゼントだけれど、実は紅月祭の時のリベンジも兼ねていたりする。
あの時は、疲れている様子のレオさんが心配で、つい回復の魔法陣なんてナナメ上のものを刺繍してしまったんだけれど、今回は自信作だ。
お父様曰く、王城は魔窟らしいから。
レオさんの身を守ってくれるように、レオ様愛用の剣を意匠に選んだ。
剣ならば割とよく刺されると聞くから、チョイスとしてもおかしくはないし、なにより前よりも私、ずいぶん刺繍がうまくなったと思うの。