まあ、何を泣かせているのかしら?
「ああでも、そっかぁ」
「?」
決意している間に、急にレオさんの声のトーンが下がって不思議に思えば、レオさんはちょっと寂しそうな表情で私を見ている。
「どうかしました?」
「いやさ、今までは会いたいなって思ったら、生徒会室に顔を出せばクリスちゃんに会えてたから。これからはこうやって、約束しないと会えないんだなって思って」
「……!」
「当たり前だけど、寂しいね」
寂しそうに笑うレオさんを見ていたら、さっきまでの楽しい気持ちが急激にしぼんで、一気に寂しさが襲ってきた。そうだ、今日ここで別れたら、もう学校で偶然会う事もない。
下町でクリスに変装して会うならともかく、公爵令嬢のクリスティアーヌとして会うのならば、それこそレオさんが言うように、ちゃんと約束して、両家に筋を通して堅苦しく面会、という手順をふまなくてはならないんだろう。
なんだか、一気に距離を感じてしまう。本当に、簡単には会えなくなるんだわ。少なくとも、今までみたいに日常的に会う事なんて、どう考えてもできない。
それって……すごく、寂しい。
そう思ったら、一度は引っ込んでいた涙が、また盛り上がってきてしまった。
「うわ、クリスちゃん!?」
「ご、ごめん、なさい」
一度涙が出始めると止まらない。
「ごめん! 大丈夫だから! テールズにこれからも行くんだろ?」
焦った様子のレオさんの声が聞こえて、私も一生懸命に頷く。
「俺もちょいちょい行くから!」
困らせるつもりはないのに、涙が出て止まらない。ごめんなさい、レオさん。
「あ~~~、ごめんね、クリスちゃん。迂闊なこと言った」
ほとほと困ったようなレオさんの声が聞こえて、体がふわりと温かくなる。
気が付けば、壊れ物でも扱うかのような優しさで、レオさんの腕が私の体を覆っていた。安心させるように背中を一定のリズムで叩いてくれる、その優しさが嬉しい。
「まあ、何を泣かせているのかしら?」
「っ」
びくり、とレオさんの体がこわばった。この声は、グレースリア様……!
「遅いと思ったら、手が早いこと」
「いや、これはだな」
バッとレオさんの手が離れる。
見上げたら、レオさんはホールドアップの体勢になっていた。
「学園周辺で迂闊な真似はおよしなさいな。壁に耳あり、公爵様に締め上げられましてよ」
「その前に僕が物理的に絞めてもいいけどね」
いつの間にかルーフェスまで居る……!
見られたのかな。は、恥ずかしい……!
しっしっ、とワンちゃんでも追い払うみたいにルーフェスがレオさんを追い立てて、私はそのままグレースリア様に学園の方へと連行される。
「クリスちゃん、約束忘れないで! 俺、迎えに行くから!」
少し遠くなったレオさんの声に、自然口元が綻ぶ。
私はグレースリア様に引っ張られつつもなんとか振り返って、レオさんに大きく手を振った。