最後の見送り
「私に特別な思いがあるように、ひとりひとりがこの学園で自分だけの体験をし、学んだことや友人との思い出を得たことだと思う。この学園で得た様々な出会いが、君たちの人生において有意義なものであることを願っている」
とても穏やかに響く殿下の声を聴きながら、私とルーフェスは目立たないよう少しずつ前へと進んでいった。
すると徐々に、他の旧生徒会の皆さんが並んで立っているのが見えてきた。
あ、レオさん……。
すごく真剣な顔で殿下の答辞を聞いている。
きっと、五年間の学園生活を思い出しているのだろう。いつもの陽気な雰囲気がなりをひそめて、もし近くにいけたとしても、ちょっと声をかけるのをためらうくらい。
学年が違うせいもあって、私が知っているレオさんの学園生活なんて本当に僅かだ。
レオさんの中には、私に出会う前の思い出も含めて、たくさんの私が知らない思い出がかけ巡っているんだろう。そう思うと、なんだか少し寂しい。
その思いは、卒業生を送り出す時に至って、いよいよ強くなっていった。
この学園では卒業式が終わると、講堂の出口で卒業生に記念品を渡し、そのまま全校生徒が門までの道を行列で拍手で見送るのが伝統だ。
涙で目を赤くした卒業生たちが、声援を受けながら華々しく門までを歩いて行く。
私たち新生徒会のメンバーは門のところに立って、卒業生の皆様を最後に送り出すのが役目。
むこうから、たくさんの卒業生が後輩たちから花束やプレゼントをもらって、泣きながら、楽し気に笑いあいながら、さまざまな表情で近づいて来る。
私たち新生徒会のメンバーも、その華やかな集団に「おめでとうございます!」と口々に声を掛けていった。
「頑張れよ!」
「期待してるわ、未来の王妃!」
そうグレースリア様に声をかける卒業生もいれば、私を見て優しく笑ってくださる方も多かった。
「大変だったわね」
「頑張ってくださいませね、こうして声をかけられる機会を待っていたんですの」
そんな風に、両手でしっかりと握手してくださるお姉さま方が多かったのは、私にとってはありがたいことだ。これまで気になってはいても、声をかける機会もなく……という方も割といたらしい。
そんな会話をそれぞれと交わしながら卒業生を送り出していると、大きな声援を受けている集団が近づいて来た。
ああ、旧生徒会の皆さんだわ。
旧生徒会の皆さんは、もちろんトリを歩いてくるわけだけど、二年前までは学園中から総スカンをくっていた殿下たちが、これだけの声援で見送られるんだから、本当にかなり信頼も人気も回復したと思っていいんだろう。
本当に良かった。素直に、そう思える。
そうやって卒業生を送り出していく中、すぐに私の目は一人の人物にくぎ付けになった。
もちろん、レオさんだ。