だって嬉しいのに、悲しい。
「さすがグレースリア様、未来の王妃の貫禄ですわね」
「そう見えるなら上出来だわ」
アデライド様の軽口をすました顔で躱し、グレースリア様は教師席の横に設けられた生徒会長席へとしずしずと歩いて行く。
その背を見送って、私は目立たないように気をつけながら、講堂の端を伝って出口へとむかう。
そろそろ卒業生にお渡しする記念品が届くころだ。届けてくださる商人の方をお待たせするわけにはいかないものね。
そう思ってざわつく講堂を急ぎ足で歩いていると、ふと違和感を感じた。
視線……?
不思議に思って視線を感じた方を見てみると、たくさんの生徒の頭の向こうから、レオさんがニコニコと優し気な笑顔でこちらを見ている。
……うわ、目が合った。
レオさんの笑顔が、より深くなる。卒業する旧生徒会役員は一般生徒とは少し離れた壁際に席が設けられていて、どうやらそこから新生徒会の動きを見守ってくれていたみたい。
「大丈夫だ」とでもいうように力強く頷いてくれるのが嬉しくて。
その顔を見ていたら、なんだか急に胸がいっぱいになってしまった。
だって嬉しいのに、悲しい。
見ていてくれたっていう安心感と、少しの照れくささ。嬉しい気持ちがたくさん溢れて来るのに、レオさんが今日で卒業してしまうんだっていう実感が、途端に溢れてきてしまった。
もうこんなふうに、見守っては貰えないんだと思うと、なんだかとてつもなく寂しい。
そんな事を考えていたら、つい、足が止まってしまった。
勝手に目に涙が盛り上がってくる。
すると、遠目からでも私の異変に気付いたのか、レオさんがあたふたしているのが見えて、私は涙目のまま笑ってしまった。
こちらに駆け付けたいのに、もう式が今にも始まりそうでその場を動けない、そんな思いでいてくれているらしいのが、手に取るようにわかる。
今度は私が笑ったのが見えたようで、ほっと胸を撫でおろしているみたい。
そんなレオさんの姿になんだか勇気をもらったような気がして、さっきまでの悲しい気持ちが和らいでいく。
ありがとう、レオさん。
思いを込めてレオさんに一礼すると、私はくるりと踵を返した。
せっかくこうして元気を貰ったんだもの、しっかりとやるべきことをやって、いい卒業式にしなくっちゃ。
少し時間をくってしまった分を取り戻そうと小走りで講堂の出口に向かい、細く扉を開けてするりと外に出る。
途端、爽やかな春の風が頬を撫でた。
私の重い縦ロールの髪を揺らした風は、そのまま桜並木を揺らし、桜の花びらを舞い上がらせていく。
そのあまりにも美しい光景に目を奪われて、私は寸の間、足が動かなかった。
「姉さん、これ」
「わっ」
突然声をかけられて、つい声が出てしまう。