縛られて、いたでしょうか
「これでようやく、二年に縛られなくなったね」
生徒会役員室からの帰り道、レオさんに声をかけられて学園の中庭を歩いているときだった。
レオさんの呟きに、私は少し違和感を覚える。
「縛られて、いたでしょうか」
「うん。かなりね。いつもクリスちゃん、あれもやらなきゃ、これもやらなきゃ、って焦ってたよね。最初は何にそんなに焦ってるんだろうって不思議だった」
そう言われて初めて、自分でもよくわからない焦燥感に駆られていたことに思い当たった。無駄な動きをしてしまったり、一気にやろうとして失敗したり。
確かに私、焦っていたんだわ。
「さっき殿下と話していたとき、君の肩からスッと力が抜けたんだ。それでわかった。君は二年の間になんとか成果を出さなくちゃって一生懸命だったんじゃないかな」
「……そう、かもしれません」
「人を信じられるようになったって言われたとき、ほっとしたでしょ」
「すごく。なんだか許された気がしました。殿下が仰るように、私も肩の荷が下りた気分で」
思わず笑ってしまった。
「レオ様って本当に観察眼がすごいですよね。私より、私の状況をよく把握してるみたい」
「そりゃあ、見てるからね」
「ただ、グレースリア様も仰ったように、これでやっとスタートラインに立てたってところなんですよね。市井官になるためにはまだまだこれからですし、頑張ります!」
ちからこぶを作って見せたら、レオさんは楽し気に笑ってから、急に真剣な顔になった。
「今後は殿下じゃなくてさ、俺と一緒に、一歩一歩無理なく頑張ろう」
「はい、勿論!」
にっこり笑顔で答えたら、なぜかがっくりと肩を落とされた。
「違うんだ……ええと」
しばらく頭を抱えて俯いていたレオさんが、意を決したように顔を上げる。
「クリスちゃん!」
「は、はい!」
がっしりと両肩を掴まれて、思わず声が上ずった。
なんか近い。
顔が近いです、レオさん。
「君は公爵令嬢で、俺にとっては手の届かない高嶺の花だったんだ、ずっと」
「そんな」
「そうなの! しかしこのたび、努力の甲斐あって、俺、レオナルド・アルブ・ハフスフルールは、ハフスフルール侯爵家の家督の第一後継者に抜擢されました」
「ええっすごい! レオさん、すごい!」
「ありがとう。だから思い切って言うけど」
そこでなぜか言葉を切って視線を外したまま、レオさんは二度、三度と深呼吸をする。その姿があまりに真剣で、私まで息が上がってくる気がするから不思議だ。