ありがとう
ひとしきり歓談し、簡単な業務内容の聞き取りを済ませたあと、皆がわらわらと出ていくなか、殿下の指示で数名だけが生徒会の役員室に残される。
殿下とグレースリア様、レオさん、クレマン様、リーザロッテ様、フェイン様、ルーフェス、そして私。
顔ぶれを見て、私は殿下がなにをお話しされたいのかを悟った。
「クリスティアーヌ嬢」
「はい」
「あれから、ちょうど二年だ」
「……はい」
そう、城下町のテールズで働く私のところまで、殿下が訪ねてくださって、約束をしたのがちょうど二年前。本当に長かったような、短かったような期間だった。
「私も、クレマンも、フェインも。この二年、必死で研鑽してきたつもりだ」
殿下の後ろに控えたクレマン様とフェイン様も、真剣な表情で私を見ている。
「クリスティアーヌ嬢、私は……変わることができただろうか。君に、許しを請う資格を得ただろうか」
殿下は自信と不安がないまぜの表情をしていた。
「はい、勿論です、殿下」
私はありったけの笑顔で相対する。
「先日の紅月祭での殿下のスピーチ、割れんばかりの拍手でしたわ。生徒会に就任された頃の生徒たちの目と、あの拍手のときの目、比べるべくもありません。皆が、殿下と皆様方のこれまでの努力を見てきた結果だと思います」
私の言葉に、グレースリア様もリーザロッテ様も、深く頷いてくれた。おふたりもまた、彼らを見守ってきたのだから、気持ちはきっと同じだ。
「……君のおかげだ。君との約束が、折れそうになる気持ちをいつでも奮い立たせてくれた」
殿下はほっとしたように微笑んで、私を真っ直ぐに見つめる。その表情にはもう、さっきまでの不安はない。春の日差しにあたったような、そんな柔らかな表情だった。
「君も変わった。夢があるからだろうか。いつも生き生きと動き回って、いまや君の周りには人が溢れている。君は、人を信じられるようになったんだね」
その言葉にジーンとする。殿下は、私の言葉を覚えていてくれたんだ……。
「ありがとう。やっと、肩の荷が下りた気がするよ」
「まあ、殿下。終わりではございませんよ。やっとスタートラインに立てたのです」
間髪入れずにグレースリア様が発破をかける。
「グレースリア、君の言うことはもっともだが……少しは感慨に浸らせてくれないか」
「では十秒だけ」
なかなかに厳しいグレースリア様の言葉に、その場はしばし笑いに包まれた。