もやもやする
「いや、緊張するものだな」
「スピーチ、とても素敵でしたわ。お疲れ様です」
割れるような拍手のなか、殿下が壇上から降りてきて安堵の笑みを浮かべる。学園長の訓示のあと、生徒会長である殿下が行った紅月祭を祝うスピーチに、私は感動していた。
料理や演目をどのような考えで選んだのか、それを真摯に言葉にし、皆に楽しんでもらいたいと素直に伝える、殿下らしいスピーチ。それを、全校生徒が素直に、好意的に受け止めてくれたということに、私は心が震えた。
だって、殿下たちが生徒会を率いることが決まったとき、生徒たちのほとんどは諦めと冷笑でその決定を受け入れたのだ。
リナリア嬢を囲む殿下たちの姿が印象深すぎて、嫌悪感を抱く人が多かったがゆえのマイナスからのスタートだった。
それがいまや、こんなにも拍手で受け入れられるだなんて。
これまでの殿下たちの努力が受け入れられたように感じて、私はまるで自分のことのように嬉しかった。
殿下のスピーチが秀逸だったのは、生徒会のみならず一般生徒がこの紅月祭のためにどれだけ尽力したかを丁寧にとりあげたことだろう。それが、紅月祭を生徒一丸となって皆で作り上げたような一体感を生み出している。
たとえば、この会場をキラキラと煌びやかに見せているシャンデリア。なんと錬金科が作ったものだった。あのフォンデュみたいな真っ赤なソースが絶えず流れる仕掛けは、フェイン様率いる魔導科の渾身の作らしいし、特徴的な料理の配置すらデザイン科が提案してきたもの。
会場設営を手伝った一課生まで労う丁寧なスピーチは、私も聞いていて嬉しい気持ちになってしまった。
ひとつだけ気になったことと言えば、料理を充実させるためにレオさんが交易路を開拓したことに触れたときの、黄色い声の大きさだ。
そこかしこで淑女たちの声援が上がり、見渡せば興奮して頬を赤くした方々の満面の笑みが目に飛び込み、「すごい」「さすがレオ様」「私たちのために……!」なんていう賛辞の声が高く低く聞こえてくる。
……そうなんだけれど。
レオさんが我が身を削って努力されたのは本当で、皆様の賛辞を受けるのはとても素晴らしいことだとわかっているんだけれど。
生徒たちの心からの拍手を受けて、嬉しそうな笑顔のまま私にダンスを申し込んだレオさんは、この日最高に輝いていた。この手を取っていただけるのが嬉しくもあり、気後れするような気持ちにもなる。
だってレオさん、こんなに人気なんですもの。私がこうして踊っていて、果たしていいのかしらと不安になる。
レオさんとこうして踊れて嬉しいのに。レオさんが賞賛されてよかったと心から思っているのに。
なんだか胸がもやもやする……。
私はこの日、とてもとても複雑な思いで家路についた。