私、行かなくては
この会場には数多のフリーな殿方もおいでだろうに、そちらには目もくれず、ふたりそろって完全に食べ物に瞳をロックオンしているのが面白い。
やがて、重々しく十九時を知らせる鐘が鳴る。いよいよ学長の訓示が行われる時間だ。
「カーラさん、エマさん、私行かなくては」
「ん? どこに?」
「学長の訓示のあと、ダンスが始まるでしょう? レオ様から近くに来るように言われているの。生徒会の人たちは演壇の近くで踊るらしくて」
「なるほど。寂しいけど、それは仕方がないわね」
「レオ様とクリスティアーヌ様のダンスかぁ。うわあ、夢みたいに綺麗でしょうね」
エマさんが夢見るようにつぶやいている。これは、失敗できない……。
「私たちも見に行こうよ、カーラ」
「うん。けど、私たちはあんまり前のほうに行くと悪目立ちしちゃうからな。ほどほどのポジションを狙わないと」
残念だけれど、貴族のなかにはなにかにつけて、貴族が優先されるという考えの人も多い。
ちょっとしたことで面倒な問題に発展しないよう、こうして爵位を持たない方々が自衛せざるを得ないのは、今後改善したいポイントだ。
「クリスティアーヌ様とレオ様のダンスをこの目に焼き付けてから、この近辺に戻ってこようか」
「うん。デザート食べながら待ってますから、レオ様が生徒会のお仕事で忙しくなって寂しくなったら、いつでも戻って来てくださいね!」
ふたりに見送られ、私はしずしずと、でも内心急ぎ足でレオさんのもとに向かう。人垣の向こうに、レオさんが立っているのが見えた。
その姿は背筋がシャンと伸びて、いつになく凛々しい。
柔らかそうなウェーブの黒髪が真っ白な衣装に映えて、僅かな所作にも気品が感じられる。あまりにも素敵に見えて、少し気後れしてしまったけれど、そんな私に気付いたレオさんがこちらに手を差し伸べてくださった。
レオさんのちょっと垂れ気味の優しそうな目が細められて、まるで「大丈夫だよ」と、声をかけられているみたい。導かれるように、脚が勝手に進み出る。
レオさんの手に私の手が触れた瞬間、レオさんは力強く私の手を握りしめ、勇気づけるように破顔してくれた。シャンデリアの効果だろうか、お姿まで光輝いているように見える。殿下よりも王子様っぽく見えてしまうのは、パートナーの欲目なのかしら。
楽隊が華々しい楽の音を奏で、誰もが表情を引き締めて居住まいを正す。厳格な雰囲気の学園長が演壇に立ち、重々しく訓示が始まった。