飽きない方ねえ
先ほどグレースリア様が質問攻めにあうと言っていたけれど、確かにこの調子では先が思いやられるかも知れない。
その予感は当たっていて、生徒会の皆様が足早にその場を立ち去ってからが大変だった。
あっという間にたくさんの殿方に囲まれて、自己紹介を迫られて困ったけれど、私が公爵令嬢のクリスティアーヌだと理解した時点で、ほぼ半数が笑顔のままフェードアウトし、少しだけほっとする。
ただ、残り半分の方はそれでも立ち去らずに、いろいろなことを根掘り葉掘り聞いてくる。殿方ってこんなにもおしゃべりなものだったかしら。辟易していたところに、救いの女神が降臨した。
「まあ、随分とにぎやかですのね」
「私たちも、そちらのご令嬢とお話ししたいのですけれど、よろしいかしら」
振り返ると、クレマン様の婚約者リーザロッテ様が、ふたりの淑女とともに微笑んでいらした。以前グレースリア様が催したお茶会で会ったことがある顔で、私は内心胸を撫でおろした。
にこやかに会話に入ってきたけれど、言葉の端というかイントネーションに圧力をかける高等技術に、前のめりだった殿方たちがジリジリと後ろに下がって行く。
今度は代わりに美しく着飾った淑女たちに囲まれた。
「レオナルド様とは親しくていらっしゃるの?」
「お名前を伺ってもよろしくて?」
なるほど、男性陣に囲まれていたのを救出ついでに、得体の知れない私の偵察も兼ねているわけか。グレースリア様にすらあれだけ詰問されたのだから、皆様がわからないのは仕方がない。
さすがに説明にも飽きてきたけれど、私は改めて自己紹介した。
「リーザロッテ様、お久しゅうございます、クリスティアーヌでございます」
リーザロッテ様の目が見開かれた。
「いつもと雰囲気が違うせいか、皆様を混乱させてしまったようで、質問攻めにあっておりました。お声がけいただけて助かりましたわ」
「クリスティアーヌ様」
「はい」
目を眇めてじいっと私の顔を見るリーザロッテ様。どうやらいつもの縦ロールと、私の顔とを考えあわせて真偽のほどを確かめていらっしゃるようだ。
ちょっと恥ずかしいけれど、納得がいくまで見てもらうしかない。
思う存分私を見つめたらしいリーザロッテ様の口から、「ほほほ……」と笑いが漏れた。
「ほほほ……ほほほほほ!」
一度笑い出すと止まらない。
ひとしきり笑ったリーザロッテ様は、「クリスティアーヌ様って、飽きない方ねえ」と、なぜか褒めて? くれた。