ちょっとレオ、どういうこと?
素敵だわ。
今日もグレースリア様はとても美しい。
紅を基調としたタイトなドレスの上に、紅のレースと黒のレースを重ねてボリュームを持たせてある。なんともグレースリア様らしい、凛とした美しさ。なのに、なぜかしら。
おふたりはとても慌てたような様子で、足早にこちらに進んでくる。
「殿下」
「よい、それよりも」
ご挨拶をしようとしたレオさんを遮って、おふたりがずいっと間を詰めてきた。プライベートな話をするレベルの間の詰め方に、周りの方々は自然に私たちから距離をとる。
王族の方のプライベートな話を遮らない、ありがたいマナーだ。
「ちょっとレオ、どういうこと?」
声をひそめてグレースリア様が詰め寄る。レオさんは、面白そうに笑って「なにが?」と嘯いた。
「……こちらの方、紹介してくださる?」
グレースリア様の笑顔のなかに、あえて見せている険が。その牽制するような笑顔を見て、私も理解した。おふたりも、私がクリスティアーヌだとわかっていないのだろう。
私をエスコートしてくると思いきや、誰だかわからない人を連れてきたと思われているらしい。
「クリスティアーヌ公爵令嬢です、どうぞよしなに」
冗談めかしてレオさんが言う。
「なにを……」
言いかけて、おふたりがまじまじと私を見つめはじめた。
「…………」
「…………」
見つめすぎでは。
真面目に穴が空きそう。っていうか、こんな至近距離でそんなに見つめられると信じられないくらい恥ずかしい……!
「ちょっとふたりとも見すぎ。クリスティアーヌ嬢が真っ赤になってるじゃないですか。とくに殿下はもう見ないでください」
レオさんがやんわりと体の陰に隠してくれて、ようやく私はおふたりの視線から解放された。大きく息をついてから、恥ずかしさのあまり息ができていなかったことに気がついた。
ああもう、恥ずかしい。
「なにがあったの!」
グレースリア様が小さく叫んだ。
「あの、レオ様が可愛らしいドレスをくださって。ドレスに似合うように装いを、変えてみたのですが……お、おかしいでしょうか?」
「なにをばかなことを。とても可愛らしいわ! いつもの貴女とはまったく路線が違うけれど、その装いもとても素敵よ!」
つい不安げに言ってしまったものだから、グレースリア様が力強く褒めてくださった。気を遣わせてしまったのかも知れない。
「テールズで見たときの君のようだ」
まだ目を見開いたまま、殿下がポツリと言葉を漏らす。