会場のどよめき
レオさんのエスコートで会場に入った途端、どよめきが起こった。
ざわざわと人々の声がさざめきのように聞こえてはくるけれど、一様にひそひそと声が潜められているからか、内容まではわからない。
なんだかものすごく見られているような気もするし、一度は収まった不安が、また頭をもたげてきた。
なにか、おかしいのかしら私。
次第に俯きはじめた私に、レオさんが励ますように声をかけてくださった。
「行こう。大丈夫だよ、しっかりと顔を上げて」
見上げたら、レオさんが目を細めて微笑んでくれて……なんだかすごく安心する。こういうときのレオさんって、なんだかとても頼りになるのね。
どうやらそう思ったのは私だけではなかったらしい。
レオさんが微笑んだ途端、きゃあ、という小さな悲鳴のような声が、そこかしこで起こる。これは黄色い声、というものだろう。
レオさんってやっぱり凄く人気があるんだわ。
たくさんの方たちの注目を浴びながら、レオさんのあとについて粛々と会場の奥を目指す。
進むごとに人垣が割れていくけれど、「誰だ?」「あんな子いたか?」なんて声も聞こえてくる。どうやらレオさんにエスコートされている私が誰なのか、それが話題になっているようだった。
「十九時の鐘が鳴る頃に、学園長からの訓示があるから、それまではちょっとバタつくかも知れない。悪いけれど、少しそばを離れると思う」
「はい、大丈夫です」
周囲の声が気にならないように、話しかけてくださるのがありがたい。レオさんの声に集中すれば、なんとなく気持ちが楽になる。
紅月祭は十八時から会場が開いて食事が楽しめるのだけれど、学園長の訓示が行われるのは十九時。直後にダンス、続けてその年ごとの華やかな演目が催され、完全に終了するのは深夜になる。
学生は十九時から二十時の間だけが絶対参加で、あとの時間は三々五々、早く来て早く帰る人もいれば、最初から最後まで堪能する人もいる、自由度の高いイベントなのだ。
レオさんは生徒会のお仕事で拘束される時間が長いこともあって、私は早めに退出することにしようと、レオさんとは打ち合わせてあった。
「十九時の鐘が鳴ったら、最奥の演壇の前に来てね」
レオさんの念押しに、私もしっかりと頷く。
学長の訓示のあとはすぐにダンスだもの。そこだけは外せないから、変にうろうろしないようにしないと。そう考えつつ進んでいるうちに、人垣が急にさあっと割れて、見慣れたお方の顔が見えた。
ああ、殿下と、グレースリア様だわ。