陛下とお父様の苦悩
お父様は若干言葉を濁していたけれど、端的に言えば私とグレシオン様のペアでは国を託していくには不安だった、という事だ。
私は人が変わったように従順で聞き分けはいいものの、何事にも興味を示さない厭世的な娘になっていたし、グレシオン様は優しく素直なまま成長し…一度懐に入れた人物を信じて疑わない危うさを持っていた。
一部の側近だけを盲目的に信じてつき進む王に、それを気にも留めない王妃。……確かに、自分で言うのも何だけど、国の未来に暗雲しか見えない。
早急に手を打つ必要がある。
「王とそんな話を真剣にし出した頃…あの娘が現れたのだ」
あの娘とは、言わずもがなリナリア嬢の事だろう。
「庶民である事すら利用するしたたかさ、男を籠絡する手腕はなかなか見事だったぞ」
上位貴族をはじめ将来有望かつ見目の良い男達に偶然を装って巧みに近づき、次々と籠絡していく。王とお父様は、報告を受ける度に驚き呆れ、年端もいかない娘にあまりにも簡単に籠絡されていく不甲斐なさに最後には乾いた笑いが出たという。
王とお父様の悩みはここでさらに深まった。リナリア嬢が籠絡していた中には将来グレシオン様の側近として周囲を固める筈だった者達も多い。
これまで婚約者達との関係もさほど問題はなく、浮いた噂もなかった男達がこぞってリナリア嬢に愛を囁き貢物を贈る様は滑稽で、不気味さすらあった。
その時点では捕らえ罪に問える程の事件を起こしているわけでもないが、グレシオン様を取り巻く面々が粗方籠絡されてしまっては、それを足掛かりにグレシオン様にまで手を伸ばすかも知れない。
それでなくともリナリア嬢を取り合って、グレシオン様の取り巻き達が揉めるだろう事は想像に難くない。学園内は手が出し辛いというのに面倒な事だ。
「頭の痛い事だが…私と陛下は、ある意味チャンスだとも思ったのだよ」
「チャンス…?」
「そう、殿下やお前が、成長するチャンスだ」
あの出来事を王やお父様がまさかそんなにも前の段階から、しかも詳細に知っていた上に、意図を持って展開を見守っていたなんて。しかも、あれが成長のチャンスと見なされていたとは。
「人はな、物事がうまく進んでいる時に成長するのはなかなか難しい物だ。比べて何か困難な出来事が起こった時は目覚ましい成長を遂げる事がある。解決のために…調べ、内省し、他者の知恵を借り、何を成すべきか必死に考えるからだ」