今日はついに紅月祭
そんな日々を経て、今日はついに紅月祭。
夕刻から夜にかけて行われるパーティーだけに、窓の外は少しずつ夕闇が迫りはじめている。
「とても綺麗よ。いつもの貴女も素敵だけれど、今日は可憐で可愛らしいわ。まるで天使ね」
「本当に。はっきりいって自信作です」
鏡のなかには、レモンイエローのドレスに身を包んだ私が映っている。
ゆるふわウェーブは柔らかく波打ち、メイクも全体的にパステルカラーの淡い色使いだ。イヤリングも小粒のパールで作られた愛らしいものだし、白のレースグローブも繊細で、いつもの私とは百八十度違う雰囲気に仕上がっている。
お母様とシャーリーは手放しで褒めてくれたけれど、ルーフェスは「誰?」って怪訝な顔をしたあと、私だとわかった途端に顎が外れるかと思うくらい口をあんぐりと開けていた。あの魂抜けたレベルの驚愕の表情が、私を落ち着かない気持ちにさせている。
ううう……レオさんを心底がっかりさせたりしないといいのだけれど。
不安だけれど、シャーリーが時間をかけて作り上げてくれたこの装いを崩すわけにはいかない。
私は落ち着かない心臓を押さえながら、ひたすらレオさんを待った。お礼としてレオさんにお渡しするつもりの刺繍入りのハンカチを撫でては、レオさんの体を案じる。
きっと、今日は生徒会の仕事もピークといっていいほど忙しいに違いない。
「クリスティアーヌ様、レオナルド様がおいでになりました」
シャーリーの声に、私は弾かれたように顔を上げる。嬉しさなのか緊張なのか、心臓がドキドキと早鐘を打ちはじめて、立ち上がろうと思うのに足が震えた。
「シャーリー」
「まあクリスティアーヌ様、なぜそんなに不安そうなお顔になるのですか」
「だ、だって。いつもの私とあまりにも違うから」
シャーリーに支えられて立ち上がったけれど、僅かによろめいてしまった。よっぽど緊張していたらしい。
「大丈夫です」
目を細めて、シャーリーが笑う。
ドレスの腰のあたりについた、大輪の花のようなレースとサテンのあしらいを形よく整えながら、シャーリーは私の顔を覗き込んだ。
「絶対にレオナルド様はお喜びになります。さあ、行きましょう」
シャーリーに勇気づけられながら、レオさんが待つエントランスへの扉を開ける。
「レオ様、お待たせいたしました」
「とんでもない、こちらのほうが遅くなってしまって……」
そう言いながら振り返ったレオさんが、私を見てそのまま凍り付いたように固まった。