会えない思いを刺繍に込めて
なぜか反省しきりのシャーリーは、小さく拳を握り締めている。なんだか決意に満ちた眼をしているのは気のせいだろうか。
「どうかしら、これならクリスちゃんだって、自信を持ってレオ君にドレス姿を見せられるでしょう?」
お母様にそう微笑まれて、私は嬉しくて一生懸命頷いた。
お母様、シャーリー、ありがとう……!
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それからの一週間はとてもとても慌ただしく過ぎていった。
絶対に、エスコートしてくださるレオさんに恥をかかせるわけにはいかない。マナーやダンスも徹底的に復習したし、さらにお母様とシャーリー監修のもと、スキンケアやヘアケアもいつもより念入りに行われている。肌を整えるために睡眠時間だってかつてないほど充分に確保した。
そして、私は僅かな時間を見つけては、刺繍の時間を捻出していた。ドレスのお礼としてレオさんに贈るための、ハンカチへの刺繍。私はひと針ひと針、思いを込めて刺している。
だって、レオさんにちっとも会えないんですもの。
レオさんは紅月祭が近づけば近づくほど、当たり前だけれど忙しくなってしまって、もはや学園で姿を見かけることすらできなくなってしまった。
教室を訪ねるなんてできないし、食堂ですら見かけなくて、レオさんは食事をとれているのだろうかと心配になるほど。せめて学年が同じなら、偶然会うことだってあるだろうに、本当に不自由だ。これまで、レオさんがさり気なく機会を作ってくださっていたんだなあと思い知る。
ああ、会ってドレスのお礼が言いたい。
ちょっとだけ、お話ししたい。
お体は大丈夫なのか、せめて顔を見るだけでも。
頼みの綱のグレースリア様も、勿論レオさんや殿下ほどではないにしても、紅月祭の補佐で飛び回っていて、とてもそんな我儘は言えなかった。紅月祭の二カ月前でさえ、既に疲弊した様子だったのに、いまはどれほど体を酷使しているかわからない。
心配で心配で。
募る思いを刺繍に込めた。
刺繍自体はけして得意ではないけれど、今私がレオさんのためにできる数少ないことだから。
どうか、レオさんがすこしでも元気になってくれますように。