レオさんの贈り物
何度訂正しても、なにかにつけて「レオ君はクリスちゃん一筋よ」と一歩も譲らない。
レオさん、誤解を解けない無力な私を許してください……。
「まあ、お手紙? なんて書いてあったの?」
「紅月祭のためにドレスを贈ってくださったと」
本当は、無理をしていないかと心配してくださるお言葉だったり、このところ学園で会うことがめっきり減って寂しいなんて、嬉しいお言葉も書いてあるのだけれど、お母様に話してしまうと余計に誤解を招きそうで、私は思いっきり要点だけを告げた。それでも、お母様には十分だったみたい。
「まあ、ドレス! レオ君ったら本気ね」
うふふ、と夢見るように笑うと、そわそわと箱の方へ視線を送る。私が開けるのを待っているのだろうことが全身から感じられる。
あまり待たせるのも可哀そうで、私はシャーリーに目配せした。
「シャーリー、開けてくれる?」
「はい」
素早く、でも丁寧に。リボンの形を崩さずに、シャーリーの細い指で魔法のようにラッピングが解いく。
なかから出てきたいかにも高級そうな箱が開けられた瞬間。
「まあ……!」
「可愛い……!」
あまりに驚くと、たくさんの言葉は紡げないらしい。私もお母様もそれだけの言葉を発したっきり、しばらく無言になってしまった。
「レオ君ったら、思い切ったものね」
「ええ、私てっきり、紅いドレスだと思っていました」
そう、紅月祭という名前にちなんで、紅いドレスが圧倒的に多いのがこのお祭りの特徴だ。無難といえば無難なので、色に困ったらそれを選ぶ。
一方で個性を出したかったり、ペアで色を合わせたりする方たちもいるので、勿論何色を着たっていいのだけれど。
レオさんはドレスのことはあまり考えていなかったようだったし、それに私のきつめの顔立ちとゴージャスな縦ロールには赤や青、もしくは黒といったはっきりとした色合いが向いている。
だから、まさかだった。
「黄色のドレスって私、初めてかもしれませんわ」
「ええ、新鮮ね。クリスちゃん、ちょっとまずは箱から出してみましょう?」
興奮しきりのお母様におされるように箱のなかのドレスに手をかけて、ドレスの上にも小さなメッセージカードがあることに気がついた。レースの模様があしらわれた、上品なカード。
「あ……」
「どうかしたの? クリスちゃん」
「カードが入っていたの。これ、レオさんが、私をイメージして選んだドレスですって……」
ドレスを箱から取り出すと、大輪の花が咲くような、ふんわり柔らかいシルエットのドレスが現れた。