お届け物です
ガレーヴへの旅から戻って以来、ここ二週間ほどというもの、レオさんとめっきり会わなくなってしまった。資料室でも会わないし、たまに学園内で見かけることがあっても、レオさんはいつも走り回っているか、難しい顔でなにかを考えている様子で、とても邪魔できるような雰囲気じゃない。
レオさんの噂はそこかしこで聞くのに、声を聴くことすらできないだなんて。なんだか、とっても寂しい。
でも紅月祭はもう目前に迫っているのだから、レオさんの忙しさは想像するに余りある。寂しさを紛らわすように、魔法の復習をしていたときだった。
「クリスティアーヌ様、お届け物です」
シャーリーの声に振り返ると、彼女の腕には大きなリボンで飾られたゴージャスな箱が抱えられていた。
「まあ、どなたから?」
「レオナルド・アルブ・ハフスフルールと署名があります。お手紙も差し込まれておりますが」
「まあ、レオ様?」
なんだかレオさん、レオさんと呼び慣れすぎて、本名だとまるでほかの方みたいに思えるけれど、レオナルドでハフスフルールと言えば、レオさんに間違いない。
「先にお手紙を読んでもいいかしら」
シャーリーからお手紙を受け取って、封筒にあるサインを見た瞬間、なんだか急に胸がジーンと温かくなった。
少し角ばっているのに、曲線は流れるように美しいこの文字。間違いなくレオさんの字だわ
学園で偶然に会うことすら少なくなってしまうほど忙しくて、いつも飛び回っているレオさんが、わざわざ自分で手紙をしたためてくれたのかと思うと、それだけで嬉しい。
私は胸が高鳴るのを自覚しながら、ゆっくりと手紙の封を開けた。
「クリスちゃん! ハフスフルール侯爵家からプレゼントが届いたのですって?」
「お母様」
レオさんからのお手紙を読み終わるかどうか、というタイミングで、お母様が足早に私の部屋にやってきた。
「お父様からお話は聞いていてよ。レオ君、ハフスフルール侯爵の後ろ盾を得てまで、貴女に紅月祭のパートナーを申し込んだそうね! クリスちゃんったら、本当に愛されているのね」
「あ、あの、ですからレオ様は私の体面を慮って誘ってくださったのです」
「まあまあ、そんなに隠さなくてもよいのですよ。クリスが幸せであれば、本当は私もお父様も爵位など気にするところではないと思っているのです。ただ、レオ君の気持ちも大切にしてあげなくてはね」
ああ、だめだ。聞いてない。
お母様の瞳はもう、まるで恋する乙女のように輝いている。ちょっとエマさんと通じるところがあるノリで、こっちのほうが照れくさくなってしまう。女の子はコイバナが大好きなのだ。
レオさんはその飾らない立ち居振る舞いで、テールズで鉢合わせるとお母様とも気兼ねなく話す方だ。そのせいか、いまやすっかりお母様のお気に入り。
しかも願望からか、お母様はすっかり、レオさんが私を好いていると思い込んでいるらしい。