この手で、賊を……?
「女がいるはずだ! 探せ!」
荒々しい声が聞こえて、私は身を固くする。
きっと、少し前から偵察されていたのだろう、私を探しているらしい。マークさんには危険が迫ったら逃げるのが一番だと教わったけれど、いま馬車の外に出て逃げるのは自殺行為な気がする。
私の身だけでなく、気を取られてほかの方たちまでも危険に晒してしまうかもしれない。怖いけれどレオさんとの約束通り、馬車のなかにいるほうが、まだ私の所在が明らかなだけマシだろう。
いざとなったら応戦せざるを得ない。馬車のなかを見回したけれど、当然ながら狭い。このなかに賊が入ってきたときに取りうる動きだけを必死で考えた。
「!」
突然馬車の幌が開いて、男がひとり、なかを覗く。
出入り口のすぐ近く、樽で簡単に作ったバリケードの傍に立ち、私は短剣を握りしめる。入り口からはパッと見、自分の姿が見えないように工夫した。
これで難を逃れられればよし、男が馬車のなかまで入って来て探すようなら、後ろから襲い掛かることができるかも知れない。息をひそめて様子を窺う。
男は、焦ったようになかに入ってきた。
短剣を持つ手が、ぶるぶると震える。
私は……攻撃、できるだろうか。
「クリスちゃん!?」
男から聞きなれた声が聞こえて、一気に緊張が解けた。
「クリスちゃん、どこだ! まさか」
「レ、レオさん……」
緊張しすぎていたのか、小さな声しか出なかった。
よろめいた拍子に樽がひとつ倒れて、レオさんに私の所在を伝えてくれる。レオさんは私を目にとめて、深い安堵のため息をついた。
「よかった……!」
「ぞ、賊は」
「ああ、残党程度だ。纏めて縛り上げた」
私も、深く深く息をつく。安心したのと同時に脚がガクガクと震えて、もはや立っていられない。
ペタン、と座り込んだ私を、レオさんが安心させるように抱き締めてくれた。
「ごめん、怖い思いをさせた」
レオさんが謝るけれど、それは筋違いだ。
だって、危険だと渋るレオさんに、私が無理を言ってついてきたんだもの。
「いいえ、いいえ。無理についてきたのは私です。どうか謝らないでください」
「いや、俺の読みが甘かった。残党の数が思ったよりも多かったし、この前あれだけ捕縛されて、積極的に襲ってくるとは思っていなかった。俺の判断ミスだ」
抱き締めてくれる温かさに思わず涙がこぼれたけれど、判断ミスは私のほうだ。こんなにレオさんを困らせて、しっかり足手まといになった。せっかくマークさんにも護身術を教えてもらったのに、実際はこんなにも体が震えている。