夜襲
テリトリーに入らなければ、無駄な戦闘が避けられる。
冒険者といえば、魔物を狩るイメージが強かったのだけれど、護衛任務では依頼人の命や財産をいかに傷つけずに保全したまま目的地に届けるかが最優先なんですって。
たくさんの魔物を狩ったとしても、依頼人や荷物の被害が甚大だったら話にならないのだから、確かにすごく納得だ。
旅そのものはとても順調で、魔物と戦闘になること自体とても少ない、快適な行程だった。
ガタガタ道で体中が痛いのは仕方ないとしても、こんなに平和でいいのだろうかと拍子抜けするくらい。
特に問題なくガレーヴの村に辿り着き、朴訥とした村人とレオさんが交渉するのを見学する。
どうやら村の人たちはこれまでかなり不利な価格で搾取されていたらしく、おおむねレオさんの交渉は好意的に受け取られていた。
私たちが王都から持ち込んできた交易品は物珍しがられて引っ張りだこだったし、それをネタにレオさんは新たな交易品のヒントを得るべく情報を引き出していて、見ているだけでとても面白い。
そんななかで得た情報をもとに、私たちは少しだけ足を延ばすことにした。
ガレーヴのもう少し奥地にある村で、紅月祭の近づくこの時期にだけ、ルビーのように輝く実がなるという情報を得たからだ。
「ルビーのように紅い実なら、紅月祭にうってつけだな」
とびきりの情報にレオさんは大きく身を乗り出して、情報提供者に場所は、量は、と矢継ぎ早に質問を繰り出しはじめた。
よかった、いい取引になりそう。
話を聞きながら、私の脳裏にはブルーフォルカが思い浮かんでいた。あの青い宝石みたいに綺麗な果実の、色が違うイメージかしら。味は? 形は? 気になって仕方がない。
旅路が順調だっただけに少々旅程にもゆとりがあった。せっかくここまで足を延ばしているのだから、交易品は多いほうがいい。全員の意見が一致して、そのルビーのような果実が採れるという、ガレーヴの先の小さな村リントウまで行くことになった。
相変わらずの山道を、馬車はゆっくりと進んでいく。
その日も、私たちは夕食を終えて泥のように眠っていた。明日にはリントウの村に着くという安心感と、ここまでの馬車での旅で、正直相当疲れていたのだと思う。
「起きろ! 夜襲だ!」
鋭い声と金属音で、目を覚ました。
「夜襲……」
起き抜けで、一瞬、なんのことかわからなかった。でも、すぐにその言葉の意味を理解する。
山賊が襲ってきたんだわ。
慌てて短剣を握り締める。旅に出ることが決まってから、マークさんから短剣の扱いについては少しばかり手ほどきを受けている。身を守るものは少しでも手近に置いておかないと。
外では激しく金属がぶつかる音が響いていて、とてつもなく気になる。それでも、馬車のなかから出るわけにはいかなかった。
この旅に同行する条件として、レオさんからきつく言い渡されたのは、こういった事態が起こったときに、絶対に馬車から出ないこと。
わかってる、いま私が出ていっても足手まといになるだけだ。
『シナリオ通りに退場したのに、いまさら何の御用ですか?』
ついに発売日が決まりましたー!!!
2月22日、ゾロ目の大変覚えやすい日付です!
イラストは加々見絵里様!
もうねえ、イラストが大変に大変に愛らしいのです!よかったら買ってくださいね(〃ω〃)