お父様の告白
「謝らずとも良い。今日は話すべき事が山積みだが、時間は有限だからな」
きっとお父様は激務の合間を縫って、この時間を捻出してくれたのだろう。私が邸を出る直前まで、その日の内に帰ってくるのは稀な事だった。
「今日は現時点でお前に話す事が出来る内容は全て話すつもりだ。そして、お前が考えている事も、時間が許す限り聞いていきたいと思っている」
思わず、弾かれたように顔をあげた私を見て、お父様は苦笑している。
「そんなにあからさまに驚かないでくれ。私とて、今回の件では反省する部分もあったのだ」
「そんな事…!」
「あるのだよ、半分は私が仕組んだも同然なのだから」
意味が分からず絶句する私に、お父様は「話せば長くなるが…」と前置きして、思いもよらなかった事の顛末を語り始めた。
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私と皇太子殿下グレシオン様が婚約したのは僅か7歳の時だった。
ちょっと気弱だけど素直で優しいグレシオン様と、ちょっと我儘だけど強気でハキハキと元気のいい私は、当時丁度バランスがいい二人に見えたらしい。
突然早逝された先王の後を継ぎ、現王が即位されたばかりだった当時、この期にとばかりに王の元へ引っ切り無しに幼い皇太子殿下への婚約打診が相次いでいた。
下手を打てば微妙なバランスで保っている均衡を崩す事になるし、さりとて決めなければ権力争いの一環として婚約の打診に忙殺される。ただでさえ突然の即位でキャパオーバーを起こしていた王は、親友であるお父様を頼ったのだ。
幸い当家は既にその時押しも押されぬ権力を有していたし、婚約によってパワーバランスが崩れる心配もない…私は当時の王にとって、これ以上ない最良の選択肢だったに違いない。
お父様もまた、王の窮状は充分過ぎる程理解していたし、権力争いで宮廷が荒れるくらいなら、公爵家に権力を集めておいた方が抑制が利く。殿下と私の仮の婚約を受け入れる事は必然に思えた。
事実私が婚約者の位置に収まってから、引きも切らなかった婚約への打診は急速に減り、王が政務に充てられる時間が増えた事で国は安定した。
その時とられた婚約という対策は、正しい選択だったわけだ。
その時点においては。
私と殿下は大病もなく成長していく。
特に兄弟がなく王の血を継ぐ唯一の存在だった殿下の成長は国にとっても重要事だった。
しかし私達が成長するにつれ、新たな問題が浮上した。




