解禁です!
はっきりいって、それを作ってみる手際も、改良するアイディアも女将さんのほうが数段優れている。基本的な材料と工程を聞いただけで、女将さんはいつの間にか研究を重ねて、独自の特製ソースを作り上げてしまっていた。
「どんなもんだい!」
そう言って誇らしげに笑った女将さんはなんだかちょっと可愛らしい。今日は自慢のソースをいろいろな食材と合わせて、実際に料理に使えないかとふたりで模索しているところだ。
厨房から汗をふきふき出てくると、いつもの隅っこの席で分厚い魔法書を読んでいたセルバさんが、すごい勢いで顔を上げた。
「クリスちゃん! そっちはもう終わった?」
「ええ、いま女将さんが最後の仕上げを。できれば試食してくださると嬉しいんですけど」
「するする! それよりさ、僕もいい知らせがあるんだよ!」
なんだろう、顔が生気に満ちている。
普段は黙々と魔法書を読んでいることが多くて、話しかけても生返事なのに。なにか伝えたいことがあるときのセルバさんの熱量は驚くほど高い。興味があることに、いつも集中しているんだろうな。
「実は魔力贈与と常事回復魔法が解禁になりました!」
えっへん! とでも言いたげに胸を張るセルバさん。
「魔力贈与と常事回復魔法って……私が昏倒して、安全性が確保できるまで使用禁止になっていた、あの?」
「そう、それ! この二カ月の間に、突貫であらゆる被験者でデータをとって、安全性が確認できたんだよ」
「まあ、すごい! 私、もっと時間がかかるものだと思っていました」
正直に感想を述べると、セルバさんは愉快そうに目を細めた。
「うん、普通はもっと時間がかかるよ。でもさ、魔力贈与も常事回復魔法も、術式が確立できればすごく便利だし、なによりやってみたいって名乗りを上げる人が多くてね、被験者確保が驚くほどスムーズだったんだ。魔導師なら魔力贈与なんて垂涎物だから」
確かに。
「ある程度安全性が確認できたところで、君の弟君にも実験に協力してもらって」
「すごい」
「彼、魔法剣士でしょ? やっぱり魔力贈与とかは特に興味があったみたいだよ。仕方がない、なんて言いながら結構協力的だった」
つんけんしながら、内心期待でわくわくしているルーフェスの顔が簡単に想像できてしまう。そういうところが憎めないのよね。
「それでその結果、お墨付きをもらったってわけ」
「嬉しい、じゃあ私、魔法の勉強が再開できるんですね」
「うん、あの調子で魔力が上がれば、実際に使える魔法を習得するのも案外早いんじゃない?」
「よかった、私、回復魔法を覚えたいんです」
そう言った私を、セルバさんは不思議そうに見つめた。