恋仲なのか?
「いいんじゃないか? この前の遠征時に賊はあらかた捕縛した。魔物はさほど強いのはいないし、大きな危険はないだろう」
「まあ、そうだけど……じゃあ、絶対に馬車の外に出ないって約束してくれる?」
「は、はい! 勿論!」
マークさんの口添えもあって、不承不承、了承してくれたレオさんに心からお礼を言い、私は思わず小躍りした。そんな私に、すかさずマークさんが念押しする。
「一カ月後か。もしもってこともある、しっかり鍛錬に励めよ」
「はい、頑張ります!」
「それよりクリスちゃん。俺はいいけどさ、ご家族はそれ、了承してるわけじゃないよね、大丈夫なのかい?」
レオさんの指摘に、私はうっと息を呑んだ。
「なにを言っているのだ、お前は」
開口一番、お父様はそう言った。
「お前がそんなに交渉ごとの現場が見たいのであれば、私の補佐として立ち会わせる。以前にも、ちゃんと機会を設けると言ったはずだ」
自分に知識と経験が足りないことを実感していた私は、使える環境はできるだけ活用しようとお父様にお願いをしていたのだった。勿論、それはそれでしっかりと経験させてもらおうと思っているけれど。
「はい、それはもう、とても楽しみにお待ちしております。前もっておおむねの案件を教えていただけますと予習できてありがたいのですが」
「それでよいだろう。なにも警備が十分でない僻地に行く必要はあるまい」
「はい、でも私、レオ様が新たに拓かれる交易の現場というものが、どうしても見てみたいのです」
「ふむ……」
急に、お父様が黙り込む。
「お前の護衛の……ハフスフルール家に連なる若者だったな」
「はい」
「侯爵位を競っているひとりだったか」
さすがにお父様はその辺の情報にも明るいらしい。私は静かに頷いた。
「もしや、紅月祭のエスコートを申し出てきた、あの若造か?」
「は……はい」
突然にお父様に尋ねられて、私は若干たじろいだ。急にその話が出るとは思わなかったんだもの。
「恋仲なのか」
「ちっ……違います!」
あまりにも直球なその質問に、私は驚くやら焦るやらで、声が思わず裏返ってしまった。お父様は愉快そうに笑ったけれど、私はなんとなく気恥ずかしくて赤くなってしまう。
勿論レオさんは素敵な殿方だけれど、恋仲だなんてとんでもない。
きっと紅月祭にパートナーを申し出てくださったのだって、殿下というパートナーを失って困っているだろう私を心配してくださったのだと思う。
なんたってレオさんは、とっても気の利くお方なのだから。