知れば知る程。
これまで民生官に任命された方々は、豪商や自警団の団長、教会の神官など、町の人たちからの信頼が篤い方ばかり。いったん民生官同士で集まって、どの案件を奏上すべきかを話し合ったうえで、代表として市井官に報告するのが常の流れなのだそうだ。
私が持っていたお仕事のイメージとしては民生官のほうが近かったけれど、お父様が仰る通り職責は広くて多岐に渡る。
なにせ喧嘩があれば飛んで行って仲裁し、手に負えなければ騎士団を手配する。火事が起これば火消しを手配し、焼け出された民を救済する。頼れる町の世話役さんのような存在が、民生官だった。
一方の市井官は、町の人たちとの接点こそ少ないけれど、ここの問題解決能力が低いとなにもことが進まない、とても重要なポジション。国を説得するだけの提案力と実行力がなくては、問題があってもなにひとつ解決できない。
町の小さな問題を解決するのが民生官なら、孤児院を建設するだの、スラム街を解体するだの、商業税率に対しての陳情だの、大きな案件を解決していくのが市井官の役割だ。
知れば知るほど、自分の力の足りなさに、怖気づく気持ちが湧いてくる。
簡単に「市井官になりたい」なんて言ってきたけれど、いまの自分では足りないことばかりだ。市井官を目指すなら、もっと知見を広くしなければならない。
世事に疎くては、せっかく持ち込まれた案件も、解決の糸口すら見つけられずに終わるだろう。
たとえば民生官を目指せば荒事だって多いわけで、腕っぷしだって強くないと無理だと思う。
マークさんならいまでも民生官ができそうだし、人脈が多くて生徒会を多彩なアイディアで切り盛りしているレオさんなら、市井官がすぐにでもできそうだ。
じゃあ、私は?
マークさんのように身分を完全に捨てて腕一本で人を守り、自らの目的に向かって進んでいく姿は見ていてとてもあこがれるけれど、いまの私にそんな実力はない。
逆にレオさんはなにかの目的のために、より高い身分を手に入れようと動いている。
そう、身分があることでできることが増えるのは確かなんだ。
私に、いったいなにができるというのだろう。
私は悩んだ。
民生官になれば、下町の皆により近いところで、同じように汗して働き、困っていることを一緒に肌で感じられるだろう。でも市井官になれば、どの問題を解決するかの決定権を持ちやすくなるし、大きな改革に携わることができるわけだ。
私は……私は、やっぱり市井官になるべきだ。
公爵令嬢であるという、その身分が私を助けてくれるなら、いまはその力を存分に利用させてもらおう。そして、その力で上げ底してもらっている間に、ひとつでも、少しでも、力をつけるんだ。
私は、改めて決意した。