市井官という仕事
翌日も私は、資料室でたくさんの本を積み上げながら調べものをしていた。このところずっと、私は市井官の役割や職務領域、実際になし得た事業などをこと細かに調べているのだ。
邸の書物で知った『市井官』という職務は、市井における民の陳情を取りまとめ、解決策を立案・提示し、これを為す者、だった。市井の民に寄り添い、その生活の向上を目指すのだという理念にとても心打たれた。
ある意味、その言葉にぼんやりとした憧れを抱いて、目指したのだといえる。
邸の書物では実際の職責や業務の流れなどは追えなかったけれど、さすがに学園の資料館は違う。
この学園を卒業すると同時に、仕事に就くであろう学生たちが真剣に将来を検討できるようになのか、その手の資料は調べればいくらでも出てくるのだからありがたい。
関連事項が掲載されていそうな本は勿論、調べていた本に出典が記載されていれば、その本まで範囲を広げて細かく調べていく。
本によると市井官というのは、この王都だけにある制度らしい。
王都以外は各々の領主が存在するため、管理は領主ごとに任されているわけだけれど、王都は王族の直轄地なうえに国政に携わる貴族の多くが住居を構えている。しかも人口も三十万人を超えていてずば抜けて多い。人の出入りも激しく、一方で他国からの要人の訪問も多い。ゆえに特別な制度がさまざま設けられているのだそうだ。
確かに王都は町の作りもほかとは違う。
ど真ん中に王城があって、ぐるりと堀がある作りで、それを囲むように円状に貴族たちの館が配置されている。王城での地位が昔から高い古参の貴族たちが一番内側で、新参になるほど円の外側になっているから、外に外に拡大していっているのかしら。
そしてその縁のさらに外側が一般の民たちが暮らす下町。東西南北に町の外から王城までをつなぐ大きな道があって、王都を出入りするにはこの大きな門を抜ける必要がある。
市井官は、貴族ではないこの一般の民たちが暮らす、下町における難事を解決するのが職務だ。町の作りに倣ってか、東西南北で担当が決まっているらしい。
各々五名程度、合わせて二十名ほどの狭き門だ。
たったそれだけの人数で三十万以上もの民の陳情を処理するのかと不安になるけれど、そこはフォロー体制がしっかりしている。市井官の下に各地区担当の情報を集める民生官が十五名ほどずつ配置されているのだ。
地区のなかに入り込み……と記載されているが、実際はその地区の顔役から任命することが多いらしい。
今日からできるだけ、毎日更新していこうと思います!
時々はおやすみする事もあるかもですけれど……。
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