花言葉とか、そういうこと?
グレースリア様は頭がよくてサバサバしていらっしゃるからか、話していてとても心地いい。
ときに勉強を教えあったり、解釈を戦わせたり、このところでは生徒会のお仕事をお手伝いすることも多かったのだけれど、今日はどうしたことか雑談に終始している。
それはそれで楽しいから異論はないのだけれど、グレースリア様は時折扉のほうを気にされていて、ついに「もう、遅いわね」とひとりごちた。
「実はね、今日クリスティアーヌ様に用があるのは、私ではないの」
「先ほどから、誰かをお待ちなのかとは思っていました」
「多分、生徒会の仕事が溜まっていたから、なかなか抜け出せないんだと思うわ。でも、どうしても一日も早くお話ししたいんですって」
生徒会のメンバーで、グレースリア様にそんなことを頼みそうな方なんて、レオさんか殿下くらいしか思い浮かばないけれど……でも、レオさんとは昨日お話ししたばかりよね。
でも、殿下からなにかお話があるとも思えなくて、私は首を傾げるしかなかった。
「ごめん! 遅くなった!」
そんななか、扉を開けて入ってきたのは、結局レオさんだった。
よほど急いでいたのか、髪の毛も若干乱れ、すっかり息が上がっている。額に汗が浮かびはじめたところを見るに、結構な距離を走ってきたのではないだろうか。
「あ、ありがとう」
そっとハンカチを差し出せば、レオさんは嬉しそうに顔をほころばせた。
「あらやだ、しまりのない顔」
からかうように笑ったグレースリア様が、「私は奥の間に移るわ。あとは貴方が話しなさいな」とあっという間に奥の部屋に引っ込んでしまって、私はわけがわからないまま、レオさんとふたり、この部屋に残されてしまった。
レオさんはまだ息も整っていないし、なんだか気まずい。
「あの、私、お茶を淹れますね」
「あ、いいよ、大丈夫。あんまり時間もないんだ」
渡したハンカチでささっと汗を拭きとったレオさんが、胸ポケットから可愛らしい栞を取り出して、私にそっと差し出した。
紅いバラの花束が刺繍された、とても美しい栞。
「これ、もらってくれる?」
「まあ、いただいていいのですか? 嬉しい」
ガレーヴのお土産だろうか。こんなに素敵なものをいただけるなんて思ってもいなかったから、とても嬉しい。いただいた栞を間近で見れば、その繊細な刺繍に心を奪われた。
「綺麗……」
「いや、喜んでくれたのは嬉しいんだけど……意味、わかってる?」
「えっ?」
意味?
花言葉とか、そういうこと?
見上げたら、レオさんがとっても困ったような顔をしていて、私は急に焦ってきた。