この胸の高鳴りは
こんなの、確かに血は止まっているけれど、テキトーに縫合されてはいるけれど、ちょっとした衝撃ですぐにでもぱっくり傷口が開いちゃいそうじゃないの!
平気な顔で大丈夫って言われても、全然信用できない!
ああ、やっぱり私も魔法が使えればいいのに。そしたら、こんなときにただ心配するんじゃなくて、ちゃんと役にたてるのに。
そう思ったら、じんわりと涙が出てきた。それくらいには、この傷のインパクトは大きい。
「うわ、そんなにこの傷ヤバそうに見える?」
私が涙ぐんだせいか、レオさんがあわあわと傷口を隠す。今さら隠されても、既に目に焼き付いてしまっている。
「ごめんごめん、でもこんなのセルバに言えばちょちょいと治してくれるって」
「いま! いますぐに行ってください! こんなところで本を読んでる場合じゃないでしょう!」
「だって……顔、見たかったからさ」
シュンとした顔で、拗ねたように私を見るレオさん。
そんな目で見てもダメです! すぐにセルバさんのところで治してもらってください。
その気持ちを込めて、涙目のまま私はレオさんを睨んだ。
「わかったわかった、行くよ。もともと今やっと帰ってきて、そのままセルバに治してもらいに行く予定だったんだよ」
「それならすぐに行ってください」
「わかってるって。でもさ、長旅で疲れてたから、どうしてもクリスちゃんの顔が見たくて」
そこまではっきりと言われて、私は初めて赤くなった。
「もう顔も見たから満足。心配してくれていたのもわかったし」
「は……はい……」
なんだろう、急にすごく恥ずかしい。顔が上げられなくなってしまった。
「照れてるレアな顔も拝めたし! ほかにも行くところがあるから俺、もう行くね。クリスちゃんも無理しないで」
それだけ言うと、レオさんは颯爽と去っていった。その後ろ姿を眺めながら、私は密かに胸を押さえる。なんだったんだろう、いまの胸のドキドキした感じ……。
次の日私は、グレースリア様にお呼ばれして、学園内に設けられた彼女の私室に来ていた。
通常一般生徒は私室など持てないのだけれど、生徒会のメンバーのみは私室を持つことを許されている。
グレースリア様はまだ正式なメンバーではないけれど、殿下から請われて主力メンバー並みに生徒会の雑務をこなしていらっしゃるうえ、次期生徒会メンバーになることが既に決まっているため、特別に私室を持っていらっしゃるのだ。
美味しいお茶をいただきながら、グレースリア様と穏やかにお話しするこうした時間は、私にとってはとても心満たされる貴重な時間だ。