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特徴2、外部義体の完全コントロール(例外多数あり)

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 私がヘカトンケイレスと言われる物になった経緯は一般的では無いので、普通のそういうのを知りたい人には参考にはならないかも知れないけど、思い出して書き残すのも立派なサンプルになるし、あなたがする事は全て人類にとって初めての事なのよと言われると得意になったりもするけど、別に小説家でもない私の書いたものがいろんな人に今後何度も見られと思うとすごく恥ずかしい。インタビューを録音するとか口述筆記とかでいいじゃないと言ってみたけれど、それはもうやったから良いんだ、新しい出力方法でしか出てこない何かがあるかもしれないじゃないの、と先生に突っぱねられた。だからと言って手書きで原稿用紙10枚目標だとかアナログな手段を取らされると、もう検証のネタが切れちゃったんじゃないかと疑ってしまう。一応偉い、賢い人たちの集まりのはずなのに。というわけで今年3度目の過去の振り返りは手書きでする事になった。一枚目終わり。


 あと9枚か、長いよ、面倒だよと思ったら、便箋になってる、原稿用紙の、表紙の裏に、書き方が、乗ってた。

 そうか段落とか改行とか台詞とかで空白を作れば、マスを全部埋めなくていいんだね!

「少しやる気が出てきたよ」

「露骨なサボりは書き直しよ」

はい、真面目に書きます、でも読みやすい様に書くのは良いんですよね?ね?

では、はじまりはじまり。


 私は義肢義体技師の父と生体工学研究者の母の一人娘だ。両親とも情報と認証のインプラントと視覚操作系のみ組み込んだだけの、肉体的には一般人。

二人は当時、最早完成したと言って良い運動系神経伝達系の義肢に比べて遅々として進まない脳と知覚統合系の補完を目指す研究室で出会ったそうだ。

お互いが自分の分野外をカバーし合える最高のパートナーなんだよと言ってたが、夫婦の単なる惚気では無く、実際の仕事でそれは発揮されその研究は完成度を高めていったらしい。

そして出来上がったのが完全なる人形「ヒトガタ」。サイボーグは全身義体とされてる人でも最低でも脳と脊髄の一部、視覚神経の終端までは素の人間のものだけど、こいつは脳から何から全部機械。

それはロボットだろと思えちゃうけど、ヒトガタはそれ自体では何も出来ない、人の記憶と精神とひょっとしたら魂をコピーされる事を目的とした「器」、ウツワだった。

さて、そこまでは出来たとして、それを完成させるには個人や民間団体だけではどうしようも出来ない倫理的なハードルが残っていた。しかし両親も会社もこれを完成させるつもりは無かった。

遺伝子のコピーは出来る、肉体のコピーも置き換えも出来る、が人の意識・精神のコピーはその当時も今も政治的にも医療的にも科学的にも許されていない。ヒトガタも完璧な移植が目的ではなく病気や事故による欠損を補う目的であり、どこが壊れても対応出来るように全てをつくったに過ぎなかった。

フラッグモデルとしての非完全版ヒトガタは数体つくられたのち、資料として保管されるに留まる予定だった。


 そしてここから私が登場。同じ会社の同じ棟で働く両親は当然その会社の福利厚生を利用して私を会社の保育所にあずけていた。科学系の会社であるためか保育所はそういった分野へのエリート教育&実験を兼ねて子供を飽きさせずにロジカル且つ飛躍する思考に導くプログラムが組まれていたらしい。その教育が今の私を作った一端になったのかもしれない。

 で、その私は会社の前の道路で事件に巻き込まれた。反サイボーグテロリスト共の自動車爆弾でのテロだ、通勤時を狙った早朝にバスを狙ったものだった。幸い死者は出なかったらしい、傷害を負わされた人の殆んどが肉体の一部をサイボーグ化して復帰したのは随分な皮肉だけど。保育所へ通う子供を巻き込んだ事で世論から大バッシングを受けたテロ組織は徹底的に摘発され、一部が海外で犯行声明だけ出す機械になっている。ざまあねえでおわす?

 数十人が病院に運ばれた中、私は爆風でコロコロ転がっただけで外傷は無し、非接触スキャンでも骨折等々も見あたらないという事で会社内で待機となった。半国策企業の軍事転用みこした研究所だから、中に入ればシェルターの様な物だからね。そして両親はもちろん無傷、なぜなら前日から会社に泊まりこみだったからだ、おばあちゃんが同居じゃなかったらトンでもねえ親だよホント。

 そして夕方、さすがに今日は仕事をする気にならない両親と共に周辺地域へのプチ戒厳令解除をまっていると事態は急変した。再度の爆発と共に私が倒れたのだ、急性の外傷性脳梗塞。会社の設備でそこまでの診断はできるが、頭開手術なんて出来ないし専門医もいない。屋外では銃撃戦まではじまり、救急搬送は出来ない。時間の猶予も無い。

 そこで両親と会社は決断した、私のヒトガタへのコピーである。葛藤やらMADな欲求やらの入り混じる経緯は私には実感が無いというかずっと意識不明だったけど。そっちはパパママに聞いて欲しい。


 倒れて6時間後にそれは開始され、9時間後に私は死んだ。


 翌々日の午後、私は起きたらしいけどそのことはほとんど覚えていない、酷いパニックに襲われたからだ。ヒトガタは全て成人の平均値で作られていた、身長も体重も。だから当時の私からみればいきなり大人の体になったわけで、そのために起きた当初の不自然な行動と恐怖心の発露等々のパニックは当然と思われていたらしいけど、私には肉体的な不自然さは感じて無かったと思う。

では何に対してパニックを起していたかというと全ての感覚が無い事への恐怖だ。見えているのに見えてない、聞こえてるのに聞こえない、息が出来るのに出来ない、四肢があるのに動かせるのにそれが無いのだ。有るのと無いのとが混在した強烈な違和感に30分くらい悶えたあとにやっと理解した私は両親に伝えた。「あと二人の私にも体を用意して」

 

私は3人になっていた。コピーとくればバックアップだろと理系らしい観点からなされた同時に同型3体へのコピーは成功し、何の相違もない3セットが出来上がり、そのうちの一つ目の仮で言う所のα機をマニュアルの工程通りに起動したのだが、私が私で居るためには3人の私が3人とも人としてあるという事が必要らしく、スリープ状態の私、β機γ機はその機械的な状態とは関係なく私として意識が覚醒していたのである。ややこしい!!


体を用意してと言ったけどスリープ状態で接続を物理的にカットされていただけの二人は直ぐに起動され晴れて私は3人で自由にうごけるようになった。今度は私に代わって当然のごとく両親と会社が大パニックである。


散々検査され質問され記憶移植の記録をチェックされプライベートも何も無く全ての要素が目の前のモニターに表示されていた。両親との会話や好きな食べ物、テレビ番組、普段の習慣なども全て詳らかにされた。幼児でよかった、今なら拷問だよ。いや、今でも同じ事やってるぞ!訴えてやる!


それで解った事は、私は3人分の義体を完全にコントロールできるということ。逆に3人同時に起きていないと酷い義体酔いになってしまうということ。3人は完全に記憶と感情を共有し、しかし完全に違う行動思考を行えるということ。情報の共有は通信が叶うならその通信を使って行うが、物理的な遮断環境でもほぼタイムラグ無しに行えるということ。所謂霊的なものがあると認知され始めた時期でこれらの通信能力もそういうことであるとは宮内庁陰陽寮から出向中の巫女さんからのコメントだった。


ヘカトンケイルの条件の一つ外部義体の全体または一部の完全なコントロールに該当するとして政府に登録、保護されると共に人としてグレーゾーン過ぎる私が人としてそれなりに扱われる事になったのは良かったのやら悪かったのやら。秘密公安組織の備品として公に出さずに予算と身分がもらえる事になったのだ、ありがたいことです。


そして今、寝る時間が必要だし、時差は関係なく3人同時に起きてなきゃならないからほぼ国内にしか使えないけど傍受やインフラ乗っ取りを気にせず使える便利な通信機として後方の要員として十代半ばの少女である私はこの組織で使われているのでした。


どう?これで10枚でしょ!面倒だったー。なんか散々実験と観察されてきたけど、今後私みたいなのって出てくるのかな?ヒトガタ1体ではどんだけ容量ふやしても人の完全コピーは無理って結論もでちゃったしね。人の脳みその霊的容量の大きさがまさに霊長だったとかこないだも巫女さんが解説だか説教だかわかんない喋り方で教えてくれたけど。お偉いさんも私みたいな形で不老長寿は望んでないみたいだし、私も機械だからって死なないわけでも無いだろうし。結婚とかできるのかなー。その前に3人まとめてつきあってくれる器の大きな男がいるのかっていう問題も…。


いかん暗い話になってきた、将来は明るいと思わねば!そういえば最近味覚だけは3人の共有に加減が付けられるように成って来たんだよね、意識すれば他の二人にはモノ食ってる感はあるけど美味しい感を一時的に共有できなくさせるの!一晩寝ると完全に同期されちゃうだけどねー。だから今の3人のローテーションが数ヶ月で交代だけど長期化するか細かくするかで念願の個性を獲得できるかもね!

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