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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

東方旧暦短編集

東方旧妖狐

作者: 真暇 日間

 

 八雲紫。

『境界を操る程度の能力』を持つ、幻想郷の生みの親にして幻想郷最強の妖怪である。

 妖怪の賢者とも呼ばれ、その実力の高さは幻想郷に住む者であれば誰であろうと知るほどである。

 また、彼女の強さの源は強力な能力だけではない。何千と言う時を生き抜いた結果として得た強大な妖力と経験、そして膨大と言う陳腐な言葉では到底表すことのできない知識量とそれを使いこなす頭脳こそが彼女の根幹を支えているものだと真しやかに囁かれている。

 その頭脳と知識量は、彼女の式である八雲藍の行動からも想像できる。

 本来式とは設定された行動しか行えないものである。

 だがしかし、八雲藍の行動に規則性などほぼ見受けられず、それどころか時に主である八雲紫に反抗の言葉を向けたり、自らの式である橙をひたすらに愛でている姿さえ見ることがある。これら全てが八雲紫によって初めに設定されている行動だとすれば、いったい彼女はどれだけ細かい術式を作り、そしてその式をいったい八雲藍のどこに刻んであるのか。

 それらの点から見ても、八雲紫の実力の高さが窺える。


 しかし、彼女は非常に胡散臭い空気を纏い続けている。時に異変を解決しても、異変解決に赴く巫女を手助けしても、基本的にどんな時でもどんな行動をしていても『裏で何を考えてることやら』とか『裏じゃなにやってんだか』とかそんなことばかりを考えられてしまう。

 謎の多い女性は魅力的だと言う言葉もあるが、謎しか見えない女性はそれはただの理解不能の恐怖の対象か、あるいは拒絶される対象である。

 彼女はそれに気付いていながらも、今日も幻想郷中を彼女の能力の一つの形であるスキマで覗いている。それがいつまで続くのか、それは恐らく彼女自身しか知ることはないのだろう。






「……紫様には見せられんな、これは……」


 私は『噂だけを集めて作られた妖怪目録』を眺めながらそう呟いた。確かに、紫様はここに書かれているようなことをしているし、ここに書かれているような二つ名で呼ばれていたりもする。

 だが、それでも大きく違う……と言うより、書かれていないところがあるのだ。


 それは、紫様の本性の部分だ。確かに紫様は古い大妖怪であり、多くの知識を備えているし必要ならば他者を嘘をつかずに騙したり誘導したりと言ったことをする。そしてそう言ったことを日常の小さなことにも多用する。その結果として胡散臭いとか笑顔が嘘っぽいとかそう言ったことを言われる。

 紫様はそういった言葉を笑顔で受け入れたり冗談のように否定したりするが───実は、結構傷付いていたりするのだ。


 霊夢や魔理沙と言った人間は知らないだろうし、幽々子様や閻魔様でも恐らく知らない……と言うよりは普段の行動から想定もしていないだろうが、実は紫様はかなりの豆腐メンタルだったりする。

 酷いことを言われた日の夜には枕を顔に押し当てて声を殺して泣いたりするし、天狗や稗田の文書に酷いことを書かれて広められてしまえば家の中で私に泣きながら愚痴を言ってきたり、妙に甘えてきたりもする。幾年も生きてきた妖怪の割に、精神面が異様に弱かったりするのだ。

 ただし、紫様のメンタルは砕けない。簡単に折れはするがあくまでそれは折れるだけ。折れた後には即座に破片を集めてきっちりと元の形に戻せてしまうと言う、ある意味稀有な心の持ち主である。言ってみれば、やや乾いた粘土のような……そんな物だ。ねりけしとか言ってはいけない。


 私と契約した当時。彼女はすでに大妖怪と呼ばれてはいたが、やはり精神面に弱さがあった。よく泣いていたし、よく落ち込んでいた。強大な妖怪との戦闘などで傷つけられた身体の痛みで泣くよりも、近くの人間の子供に言われた『胡散臭いね!』と言う素直な一言に胸を撃ち抜かれて涙する方が多かったほどに。

 ……ちなみに、その二つの割合は99.9:0.1ほど。豆腐より柔らかいメンタルだ。今でもそれはあまり変わっていないため、できればあまり悪口は言わないでやってくれ。泣いたり怒ったりだけならともかく、拗ねると長いのだ。いや、本当に。

 先日も、異変と言うほどでもないちょっとした事件を解決した後に人里で団子を食べていた時に魔理沙に見付かり、歳と恰好の事をからかわれたのだ。その時には優雅に微笑み、言葉のみで何倍かにして返してやったように周りには見せたが、家に戻ってきてからが長かった。

 突然私に抱き付き、息が苦しくなるほどの力でずっと抱きしめられ続けた。それはいい。いつもの事だ。しかし、じわりと瞳に涙を浮かべてそのまま声もなくただ涙を流されては、私にできることなど抱きしめて頭を撫でてやることくらいしかないではないか。どうせならもっとわかりやすく愚痴を言ってくれたりすればいい物を、紫様はいつも自分一人で抱え込んで……。

 まったく、橙のように……とまでは言いませんが、もう少し素直に自分の心の内を出していけばいいのです。そうしていればまだ噂の内容も少しましなものになっていたでしょうに。


「……らん」

「! 紫様、いつからそこにおら……紫様?」


 神出鬼没、と言われる紫様は、本当にいつも気配もなく現れる。だが、今回もまた威厳の欠片もない顔で私を見つめてきた。


「……今度は何ですか?」

「……ん」


 紫様は、何も言わずに私の身体を何本かの尻尾ごと抱きしめた。……また霊夢辺りに何か言われたのだろうな。

 抱きつかれていない尻尾を操り、紫様の全身を尻尾で包む。尻尾玉から出ているのは頭と髪、そして私の前に回している腕だけと言う状態で、しかし紫様は涙を流し続ける。

 ……返事がない、と言うことは……割と重態だ。心が傷ついたくらいではなく、かなり綺麗に折れているだろう。

 読んでいた本をどかし、紫様の体を私の前に持ってくる。尻尾に包まれている状態ならばこのくらいの事は簡単だ。私の尻尾は長いしな。

 そのまま私は紫様を抱き締め、ゆるゆると頭を撫でる。帽子を取った紫様の姿を見る機会など、外でしか紫様に会わない連中にはけして得られることのない非常に珍しい事だろうな。

 だが、少なくとも私は何度もその姿を見ている。紫様は何度も言うが豆腐のように柔らかく、粘土のようにすぐにくっつく精神を持っている。

 そのため、霊夢になじられたり伊吹様に笑われたり魔理沙に暴言を吐かれたり人里の守護者に怪しまれたり橋姫に妬まれたり天狗に胡散臭いと言われたりするだけで精神的に致命傷を受けるわけで……その度に私がこうしてその対応に回るわけだ。


 紫様は素晴らしい主だ。能力に関しては言うまでもなく、私にする命令についても理解の及ばないところはあるものの最後には最良の結果をもたらしている。

 知識、頭脳、力量、影響力、妖力、判断力……ほぼ全ての事において私を上回っている紫様だが、精神面の強度だけは私よりも劣る。

 だが、何度傷つけられても何度ボロボロにされても変わりなくあり続けることができると言う点では、精神が全てである妖怪としては非常に珍しい……と言うよりも『ありえない』と言う言葉の方が正しいかもしれない。

 精神面において、紫様は今まで当然のように敗北を続けてきていた。その結果、いくら傷付いてもすぐに立て直すことができると言う柔軟な精神が養われたのかもしれない。

 その代償として硬度は生まれた当時からそう変わってはいないようだが、それもまた紫様の魅力の一つ。私が心酔する紫様と私だけの、二人だけの秘密の話。


 ぐすぐすと鼻を鳴らす紫様を抱き返し、尻尾で今度は私の身体ごと紫様を覆う。私の尻尾は紫様のお気に入り。いつでもしっかりと手入れは欠かさない。


「……紫様。私はいつまでも紫様の傍に居りますよ」

「……うん」


 紫様が、私と二人きりの時にだけ見せてくれる弱気な表情。長き時を生きた妖怪としての『八雲紫』の顔ではなく、精神的に脆い少女である『ゆかり』としての顔。その顔をしている時は、式でしかない筈の私の胸の奥底から暖かい感情が湧き出してくる。私は子を持ったことがないからわからないが、手のかかる娘を持った母親の気持ちとはこういったものなのではないかと密かに考えている。


 ……橙はかわいい。いつでもかわいい。異論は認めんし反論も黙殺する。

 だが、紫様は時に橙より可愛らしくなることがある。『時に』と言いつつそれなりによくあることなのだが、とにかくそんな風になることがある。契約したばかりの頃はその時に寝首をかこうとしたりもしたが、どうにも絆されてしまった。今ではもうそんな隙を見つけても反抗する気はおろか『情けない』と思うことすらなくなってしまっている。

 そしてそうした紫様の情けない姿を目にする度に、私の心には暖かいものが溢れていく。支え甲斐があると言うか、守りたくなると言うか……兎に角、色々と複雑に見えて単純な事情があるわけだ。橙マジ天使。紫様マジ女神。


 私に抱き付いてぐすぐすと泣いている紫様だが、今回はどうやら抱き枕コースらしい。妖怪の多くは眠る必要など無いが、眠らなければいけない妖怪もいる。紫様は冬眠と言う形で一度に長く深い眠りを必要とするが、こうして泣いて疲れると子供のように眠ってしまう。紫様のあどけない寝顔は、今は私しか見れないものだ。紫様は仕事の関係上、外では弱点を見せられない。故に完全に内側である私にだけそういった姿を見せるのだ。


 ……私も昔は『傾国』だのなんだのと言われてきたが、私などより紫様の方がよほど国を傾けられるだろう。力任せにしても、王を誘惑して言うことを聞かせるにしても、紫様ならばこなせる筈だ。やらないだろうが。


 紫様が眠ってしまうまで、私は仕事を再開することはできない。よしよしと紫様の御髪を撫で、涙を受け止める。こういった姿を周りに見せることができるなら、紫様が少女を名乗っても違和感など抱かれないだろうに……。

 まったく、幻想郷の管理者と言うのは自由のない職だな。素直な感情を出すこともできやしない。

 ……まあ、こんなご褒美があるなら私にとってはその程度の制限など安いものだがな!

 紫様は無茶振りはしても不可能なことを振ってはこない。ただ、非常に難しいことを振るだけ振ってノーヒントで実行させようとすると言うスパルタな一面も見せるが、必要だからそうしている。私の成長や幻想郷のパワーバランス等、考えるべき無数の事を読みきって私に指示を出す。そして自らの立つ場所まで連れてこようとして、無理ではない難題を押し付けていくのだ。

 私に可能なものは私に試練として与え、私にはどうにもできないものは自らが手を出して終わらせる。初めのうちは紫様自身が私の身体を内側から操って手本を直接実行してみせてくれていたが、今では本当に必要なときでもなければそんなことはしない。私よりも紫様の方がほぼあらゆることにおいて上手だが、昔に比べて僅かなりとも紫様に近付くことができているために私の身体を使うよりも私と合わせていた方が結果的に効率がいいためだ。


 ……こうして泣いている紫様を見ていると少し信じられなくなってくるがな。

 紫様は冬眠以外では基本的に眠らない。よほど力を使って疲れた時か、あるいは今のように泣いて泣いて泣き疲れたときくらいだ。


 ……子供のようだろう? これでも幻想郷最強と名高い妖怪なのだ。嘘のような本当の話だ。こんなに可愛らしいのに幻想郷では恐れられたりする方が多いというのは個人的には大きな損害だと思うのだが、紫様がそうあってほしいと願うのだから仕方ない。残念だが諦めるしかない。


「……紫様?」


 暫くすると、しゃくりあげる声が聞こえなくなる。それはつまり紫様が泣き疲れて眠ってしまったことを意味するので、術を使って寝具一式をすぐそばに転移させる。そして尻尾の中で眠ってしまっている紫様を布団に移し替えれば……これでよし。準備は万端整った。

 さあ、ご褒美の時間だ。


 紫様をこちらから抱き締める。暖かくて柔らかでいい匂いがする。本当なら私が紫様のお腹に抱きつきたいところだが、そうすると私から抱き付いてしまったと言う証拠が残ってしまうので紫様の顔を私の胸元に埋める形にする。それでも髪の匂いはするから悪くはないがな。

 紫様から抱きついてきたような形のまま、私は紫様を堪能する。尻尾に抱き付いていただいている状態では、紫様は気持ちがいいかもしれないが私は毛が邪魔をして紫様の感触がよくわからない。やはり私から触れるときには毛のない部分で、できるだけ触覚の発達した部分で触れたい。そう思うのは不自然なことではないはずだ。

 まずは指先で。閉じられた瞼の端に涙の珠を残した紫様の涙を指先で拭い、そしてその涙を私の舌が舐め取る。主人の妖力が含まれている液体は、式にとっては極上の甘露だ。涙でなく唾液や血液でも問題なく食えるが、この状態の紫様の血肉を頂くのは気が引ける。下衆の極みだ。間違いない。

 そして指では拭いきれなかった涙を唇で直接掬う。触れるか触れないかと言うギリギリの接触でも……いや、ギリギリの接触だからこそ沸き上がる幸福感。指先と同等かそれ以上に接触による刺激に敏感な唇は、紫様の柔らかな肌に触れるだけでその吸い付くような肌の感触をしっかりと伝えてきた。

 白粉を使わずとも雪のように白い肌。泣き続けていたせいで少し厚くなってしまった目蓋。金糸を束ねて風にさらしたような髪。桜の花弁を想わせる唇。どれをとっても美しすぎる。

 そして現在紫様を独占しているのが私であると言うことを思うと……。


 ……。


 …………。


 ………………うっ!

 ……ふぅ。


 ……よし、落ち着いた。鼻血が出そうになって少し慌てたが、問題ない。鼻血以外には別に何かが出そうになっていたりはしないから安心してくれていいぞ?

 それではこれより紫様をひたすらに愛でるだけの簡単かつご褒美以外の何物でもない作業を続けようと思う。脳内実況はスッパテンコーが、解説は私、八雲藍が担当させてもらおう。同一人物だとか言ってはいけない。事実がどうであれ言ってはいけない。


 これまでに紫様の髪と肌、唇の美しさについて語ってきたわけだが、未だに紫様の全てを語ることはできていない。まあ、私程度が紫様の全てを理解できるわけがないのだが、それでも紫様にとっては私はかなり近いところにいることは間違いない。

 それは中身の話でもあるが、同時に外見の話でもある。美しいと言うことは理解できるがなぜ美しいのかを理解できず、理解できないが否定するにはあまりに美しすぎる。私にとっての紫様とはそういう存在だ。

 情けないところもあるし、弱点や欠点だって見えている。しかし、そんな部分すらも愛おしく感じさせてしまうと言うのは紫様の人徳と言うものだろうか。


「藍しゃま~……? どこですか~?」


 ……どうやら今日は紫様をじっくり堪能できるのはここまでらしい。残念だが、橙が来てしまったのだから仕方ない。

 布団から抜け出……そうとしたが、紫様に腕をしっかりと抱き締められてしまって抜け出せそうにない。服だけならば脱ぐなりなんなりすればいいのだが、腕を抱え込まれてしまっていては動きようがない。


 ───うぇへへへ紫様のおっぱいやーらかいナリィ。


 スッパテンコー(解説)カット。そういえばまだ終わらせていなかったな。何かあったわけでもないのだが。


 ───紫様のフトモモあったかいナリィ……。


 カットカットカットカットカットカット!こんなことを考えながら橙に会えるか!


 無理矢理頭の中の色狐を黙らせる。優秀だが頭の中身がほとんど桃色なのが珠に傷だ。時にそのために凄まじい力を発揮するのだが、普段は厄介でしかない。


 ───い、嫌だお!もっとゆかりんのおっぱいやフトモモをたんのーするんだお!


 黙れ!そして帰れ!ええい封印してやる!


 ─── アッ──────!


 ……よし、黙ったな。やっと静かになった。


「橙」

「! 藍しゃま!」

「こら、紫様が寝ているんだ。静かにしなければ駄目だろう?」

「あぅ……ごめんなさい藍しゃま……」


 橙が可愛すぎる。このままでは私の寿命が萌やし尽くされてマッハなんだが。

 だが、私は構わん!可愛いから許す!橙は天使!マジ天使!

 そうだ、ここに神殿を建てよう!主神に紫様、天使に橙を奉って崇めよう!


 ───そしたら橙を狙う不届き者が増えるんだなウプププ


 ……よし、この計画は無かったことにしよう。そしてこのスッパテンコー(馬鹿)も無かったことにする。具体的にはぶっ殺す。


 ───残念ながら橙とゆかりんへの愛が拙者を支えてくれている限り某は無敵にして不死身でござるよ!我が身は幾度封ぜられようと愛さえあればなんとかなるでござる!


 ええいこの似非駄狐が!


 ───ホンモノの駄狐がなんか言ってるナリよぉ……。


 こ の ク ソ ボ ケ 駄 狐 モ ド キ が ぁ……!


「……藍しゃま?」

「どうした? 橙」


 そんなことより橙の相手だな。その方が億倍……いや、0に何をかけても0は0だったな。

 とにかく無視しよう。カットカット。


「あの……その……今日は、紫様と、藍様たちと一緒に寝ても……いいですか?」


 うちの天使()はこんなにも可愛い。だがしかし、そんな顔を浮かべてしまってはこれまで橙の意識に積み上げてきた私の評価が台無しだ。それはよくない。

 なんとか色々なものを外に出さないように抑え込み、意識して笑顔を浮かべる。いつも橙に見せている笑顔を浮かべられているはずだ。


「ああ、いいよ、橙」

「本当ですか!やったぁ!」


 ぴょんと飛び上がって喜ぶ橙に苦笑を浮かべてしまうが、それも仕方のないことではある。橙はまだまだ若い妖怪だし、私のように妙に達観した精神を持ってはいない。子供はこのくらい元気な方がいいとは思うが……もう少し大人になってくれねば安心できん。


 ―――どうせいつか大きくなって親離れしていくんだから今のうちにかまっておくがいいでござるよ。後悔は先に立たぬ物でござるからなぁ。


 ……わかっているさ。嫌と言うくらいにな。


 猫らしく殆ど足音を立てずに走っていく橙を見送りながら、紫様の髪を撫でる。紫様は僅かに身じろぎするも、私の手を受け入れている。


 美しい金色の髪。女性らしい丸みを帯びた、かつて『傾国』と評されることすらあった私から見ても魅力的な肉体。三千年を優に超える年月を生きた私を遥かに超える妖力と、それを扱う技術。どこからか無限に湧き出ているのではないかと言う疑問すら持ててしまう知識。全てにおいて魅力的で、それらを手に入れようと人魔神妖問わずに襲われた経験もあるだろうに、この純粋な主は私にかなりの自由を与え、その上で私の事を受け入れている。

 かつて、幻想郷がまだ紫様の頭の中にしか存在していなかったころ。鬼を降し、天狗を薙ぎ払い、無数の妖魔を蹴散らし、一部の神すら殺して見せた私の主。ただひたすらに研ぎ澄まされ、鋭さと切れ味を極限まで鍛え上げたかわりに強度を限界まで落としてしまっていたあの頃の姿からは想像もできないが、今の紫様はとても丸く、柔らかくなってきている。

 それが私は嬉しくて、けれど少し不安に思えてしまう。


「紫様」


 続く言葉は音とならず、僅かに掠れたような吐息として空気に解け消える。しかし紫様は私を抱きしめる両腕に込める力を増し、ほんのわずかに口角を引き上げた。


 ―――あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ゆかりんかわいすぎるんj


 黙れ


 ―――アッハイ


 ……もしもこの感情が、式符によって植えつけられた仮初の物であったとしても。きっと私はこうして過ごす時を、後悔する事は無いでしょう。

 枕を持ってきた橙を布団に招き入れ、今日は八雲家三人で寄って眠る。私の右に紫様が。私の左に橙が並び、ゆるりと過ぎ行く時間を感じながら眠る。


 ……うむ、ここは天国だな。両手にこれほど美しい花を抱えたまま眠れるなど、永く生きてきたがそうはない。実に素晴らしい場所だな幻想郷は!


 幻想郷、バンザイ!






 ※※※※※※※※※※※※※※





 ここから設定。捏造だらけなので嫌な人は回れ右推奨。責任は取りません。





 八雲紫


 とっても強くてすごーく弱くてしっかり者だけど情けない、あらゆる場所から見た判断基準の境界線上にいるようなお方。なんだか可愛い。

 本当は『こんな風なヘタレだけど頑張ってます』路線にしたかったのに、何がどうしてこうなったし……。




 八雲藍


 ゆかりんの式。時々思考が分裂して勝手に動き出す。基本変態、でも面倒見のいいお姉さんキャラでもある。

 本当は『ヘタレな主を支えるしっかり者』だったはずなのに、マジでなんでこうなっちゃったし。




 ……本当は『旧境界』でゆかりんが主役のはずだったんですけどねぇ……。


 ……なんでこうなったし。


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