猫と女の 01
朝。太陽が昇り、既に時刻は午前8時を過ぎた頃。
ジリリリと甲高い鐘を叩く音が、木と石で作られた部屋の中に響き渡る。
反響する音に嫌悪感を示す様な鈍い動きで、音の現況を手探りで探す一人の女性。
「・・・うぅ・・・五月蝿い・・・まだ寝る・・・」
部屋の端に置かれたベッドの中に音の元凶、目覚まし時計を取り込んで背部のスイッチを切る。
「静かになった・・・Zzz―――」
では何の為に設置したのか。
役割を果たす事も出来ずに己の仕事を否定された時計が、哀れでならない。
女性はそんな時計の気持ちなど知らず、再び夢の中へと意識を放り投げていった。
しばしの静寂。
窓から薄っすら漏れ聞こえる小鳥たちの囀り。
―――トタトタと、朝の音に混じって部屋に迫る足音がある。
やがて足音は部屋の前まで辿り着き、バタン!と大きな音を立てて部屋の扉が開け放たれた。
「いい加減起きなさいリオネール。もう8時を過ぎていますよ」
部屋に入ってきたのは、メイド服を身につけた一人の女性だ。
「んん~? うん・・・おき・・・る・・・」
返って来た生返事からは、起床の意思など微塵も感じられない。
恐らく己が今何と答えているかすら自覚できていない、実にいい加減な応答。
「全く。何の為の目覚まし時計ですか。さぁ、布団を手放しなさい」
「んー・・・あと五分・・・」
「たかが5分眠った所で意味はありません」
メイドは力ずくでリオネールから掛け布団を奪い取り、手際よく四つ折りにする。
慣れた手つきで布団を手に、部屋の窓の閉じられたカーテンを勢い良く開いた。
「んああああ・・・目が・・・目に光がしみるぅ・・・」
「とっくに太陽は顔を出しているのです。何時までも陽の下で寝ぼけていないで、顔を洗って朝食を済ませて下さい」
メイドはそう言い残して、布団を持ったまま部屋から立ち去っていった。
再びトタトタと階段を下りていく音だけが聞こえてくる。
「ぬぅ・・・朝はなぜやってくるのかしら・・・」
世界にとって当たり前の事に悪態をつきながら、のそり・・・と身体を起こす。
窓から射し込む朝陽で、金色に少しだけ桃色の指した髪がゆらりと照らされる。
ゴシゴシと擦られた瞼の奥には、鮮やかな紅色を携えた赤い瞳が、今尚寝ぼけた眼をしていた。
リオネール・ハニーハートの朝は、概ねこの様なやりとりから始まる。
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「おう、やっと起きたか」
「おはよー・・・シャル・・・」
彼女が自宅のリビングへ降りてくると、朝食を手際よく並べていく先ほどのメイドに加えて、新聞を読む一匹の猫・・・いや、一人の獣人の姿があった。
「・・・猫の方が寝起きがいいって、何か納得いかない・・・」
「種族の問題以前に、お前は生活がだらしニャさ過ぎるんだ」