3.恋情
「國定の知り合いなの?」
「一年のときは唯一といってもいいほどの友人だ」
唯一、という言葉は僕からしたらという意味も含まれている。赤城経由で何人か友達らしきものはできたが、正直気兼ねなく話せるのは彼女だけだろう。
「僕の名前をこんな真昼間から売らないでくれないかな?」
「おぉ、本当に國定君だ」
「2月にあったばっかりだろうが。二ヶ月あってまた事故らないかぎりここにはいるのが当たり前だろう」
僕は彼女がいる廊下へと出る。
「で、何か用か?」
身長は173と並々な男子高校生の身長な僕だが、それでも小春はものすごく小さく感じる。
「とりあえずいるのか気になったからね。後、私会長になったんだ。といっても、一年から三年の、だけどね」
「そんな役職あったか?」
僕の知ってる二年前の学生会は、確か三年のなんとかって人が生徒会長になって多少多少改革は起きたが。
「桐谷先輩って人がね会長になったんだ。私の一個上。普段はあんまり頭がよくなくて去年なんて追試が何個も合ったんだって。でも、いざという時は頭の切れるすごい先輩なんだよ。で、その人が作ったのがこの私の役職。一年から三年にもまた新たな学生会組織を組み込む。それの長なんだー」
語尾を伸ばしながら失礼ながらあまり張るものがない胸を張る。
「こんな天然娘に組織を任せるなんて、役の使いどころを間違えてるな」
「ところがどっこい先輩の推薦じゃないんだ。これもまた選挙で選ばれたの。そう、文句なしのナンバーワンでね」
得意げな顔を見せる。僕はため息をひとつつく。
「で、本当はこっちの話をしたかったんだろ? 多分だが、僕にその学生会に入れとか言う話をしようとでも思ってるんだろ?」
小春は驚いた顔をする。わかりやすいやつだ。少し恥ずかしそうに彼女は切り出す。
「う、うん。よくわかったね? ……なら話は早いよ! 返答はどうなの?」
「嫌だね、って心のそこから言いたいが。ま、別にかまわないよ」
小春は目をぱちくりさせる。……こいつは僕に入ってほしいのかな?
「え、入ってくれるんだね。それならいいんだけど」
「入ってほしくないのかよ?」
「いや國定君は頭いいし責任感だけは人一倍強いしどうせなら私の代わりを務めてほしいよ。ただね……」
言葉を濁す。僕は慎重に彼女の言葉に耳を傾ける。
「國定君ならどんなに言っても入ってくれないと思ったから……」
なんか悲しそうな顔をされると無駄にこっちが罪悪感を感じる。
「お、小春。役員候補か?」
たまたま通りかかったやけに輝かしい男の人がこちらを見つめる。
「あ、桐谷先輩。これで全員ですよ」
「そっか、成功したのか。さすがだな。じゃ、頑張れよ。会長さん」
「そっくりそのまま、あなたにその言葉をお返ししたいですね」
かすかに笑いながら両手を桐谷と呼ばれた多分会長に向ける。彼女の癖だ。
「今のが新会長?」
「そうだよ!」
やけに楽しそうだ。……いつもこんな感じだが、なんか今日は違う感じがする。彼女からふわふわとした高揚感が感じ取れる。
「あぁ、恋、かぁ」
恨めしそうに、憧れるように僕は呟く。別に確証なんてない。日常の一部分を切り取ってそれを恋とすることなんて簡単だ。だが、彼女は本当にそう呼べるものなのだろう。会話するだけで、笑ってくれるだけで、彼女は嬉しいのかな? そうとって見れる。
「これだけか? 頑張れよ、小春」
「國定君もね」
他人の恋路なんて特に興味なんてないが、とりあえず叶うのを願う。勘違いだったら笑いものだな。