2.芳情
授業も終わり、昼休み。僕は秘密のある場所で一人細々と飯を食おうと思っていたが、掛川につれられ、教室で食うことになった。
女子が二人、男子が僕と掛川、そんでもう一人。名前は覚える気がなかったので周辺の人しか覚えていない。
「國定君、だっけ。大変な目にあったね」
ポニーテールの気の強そうな、ルーム長のような責任感のあるこの子を仮に少女Aとしておこう。少女Aは本心からそういっているように見えた。
「大変かどうかは僕しだいだけどね。何せそのおかげでめちゃくちゃ勉強してめちゃくちゃ運動して。リハビリ終わったら好きなだけ時間があるからな。いわゆる強くてニューゲームをしてここに入ったんだ」
少女Aは微笑を返す。
「うっわ天才発言じゃないっすか。俺はそんな人生いやだね」
「掛川君には勉強のべの字も似合わないからね」
ちょっとだけふくよかな眼鏡をかけた少女Bが反応する。
「でもまぁ、こっちは見知らぬ顔が一人増えただけだけどさ、國定君からしたらまた一年生になったみたいな感じじゃないの?」
これまた眼鏡をかけた少年Aの言葉に、妙に胸の感じが悪くなる。似たような感じをどこかで覚えたことはあるが。
「何度も転校してるし似たようなものかな。ここ四年間はお父さんが海外出張に切り替わったからお母さんも仕様がなく単身赴任を許したそうだけどね」
いっててわかった。転校したときと同じ心中だ。興味本位に話しかけられて無意味に情報を聞き出して、一人満足して帰ってく。気がついたら教室の端っこに追いやられている自分がいる。いつもそうだった。
「そうか。わりぃな、無理に連れて来ちまって」
掛川は不意に謝る。……僕の気持ちを察したってことか。顔がそんな嫌そうに見えるようならとにかく、自分ではポーカーフェイスが上手いと思っているんだ。表情で察されることはないとは思う。
「何の話だ? 別に僕は困らないし、むしろ嬉しいかもな」
掛川は僕の顔を疑い深く覗く。そしてかすかに笑う。
「國定君は何か部活でもしてたの?」
「帰宅部でエース狙ってた」
特にこれといった趣味も運動もしていなかったため、これといったものをしようとは思わなかった。
「俺とお前とは同じエースを狙うライバルのようだな……」
掛川が乗ってくれる。が、正直どうでもいいことなのでスルーを決行。そんな時教室のドアが開く音ともに
「國定君いるー?」
なんてのんきな声が聞こえてきた。聞き覚えのあるこの声。ちょっと天然なクラスの人気者、そんな肩書きが付き添う赤城 小春だ。