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第八章 -47.09-126.43/

 超弩級恒星間飛行宇宙空母「レイク・ハリ」のブリッジはいわく言いがたい緊張感に包まれていた。

明滅するコンソールに囲まれながら操舵を握るネイランド・コラム中尉はそっと肩越しに背後を見る。

ブリッジ中央に設けられた艦長席には邪神との闘争に人生を捧げた老戦士ラバン・シュリュズベリィ大佐が座っている。

問題はその斜め後ろに一段高く設えられた席だ。その席はつい数時間前まで誰も座っていた試しはない。

その席の主人はシュリュズベリィ以外の誰とも会おうとせず、常に艦中央の玉座の間に閉じこもっていたのだから。

一部ではその存在自体が怪しまれてすらいた、この艦の真の主が、ついに闇に閉ざされた玉座を離れ、このブリッジに姿を現したのだ。

ぼろぼろに擦り切れた黄色のローブに身を包み、蒼白の仮面で顔を隠したこの怪人物の正体をコラムは知っていた。

黄衣の王ハスター。

「名状しがたきもの」とも「邪悪の皇太子」とも呼ばれる邪神である。

復活すれば地球を滅ぼし尽くすと言われる旧支配者クトゥルーを滅ぼすために、

いわば毒をもって毒を制するためにラバン・シュリュズベリィが担ぎ出した、クトゥルーに匹敵する邪神。

そしてこのレイク・ハリこそは、そのハスターそのもの。

ブリッジに存在する怪人物はその一部に過ぎない。

あるいは対人用のインターフェイスと言ってもいいのかもしれない。

どちらにせよ、言葉通りの意味で名状しがたい相手である。

人間の狭量な認識で捉えられる存在ではない。

コラムは同志であるアンドリュー・フェランやエイベル・キーンらと共に、

当時は教授という肩書きだったラバン・シュリュズベリィに導かれて多くの修羅場をくぐってきた。

ネクロノミコンの著者とされるアブドゥル・アルハザードの足跡を追ってアラブの砂漠を彷徨い歩いたり、

クトゥルーを復活させるべく暗躍する邪教徒達と戦ったり、時には深きものどもやショゴスとの死闘を演じたこともあった。

そうした人外の戦いにおいて常に彼らを支援してくれたのが、このクトゥルーの宿敵たるハスターであった。

ハスターは彼らにセラエノに眠る神々の秘められた知識を解放し、時には眷属たるビヤーキーを派遣して窮地を救った。

だが、決してハスターがただの好意からそのような支援を行ったわけではないことはシュリュズベリィやコラム達も充分に承知していた。

ハスターは単にクトゥルーにとって都合の悪いことであれば何でもよいのだ。

彼らのごとき人類の理解を超えた存在に、果たして人間らしい感情などがあるのかは不明だが、

少なくともハスターのクトゥルーに対する憎悪は常軌を逸しているといって良いだろう。

そうしてクトゥルーを滅ぼしたい両者は共闘し、ついにはハスターが直々に地球に赴いて、

ルルイエにて夢見るままに復活の時を待つクトゥルーを攻撃するという事になった。

 地球に送り込んだ先遣隊がほとんど壊滅したという報告を受けても、黄衣の王は軽く頷いただけだった。

多少の抵抗があった所で仮死状態にあるクトゥルーなど恐れるに足らないと思っているのだろうか。

「レーダーに感!高熱源体5接近!14分後に本艦に接触します!」

「アメリカかロシアの核か?回避しろ!」

「いや、待て。その程度で余の身体が傷つくことはない。現状のコースと速度を維持せよ。」

シュリュズベリィが回避を指示したのを、黄衣の王が撤回する。

「しかし、王よ。これ以上の戦力の損耗は…」

「黙れ。シュリュズベリィ。軌道を変更して時間を無駄にしたくない。どのみち人間の核兵器などでこのレイク・ハリはどうにもならん。」

きっかり十四分後、5発の水爆が音もなく宇宙空間に熱線と放射線を撒き散らした。


 ギョジンガーZを乗せた輸送艦夜刀神とグレートマジンガーを乗せた輸送艦オーベッド・マーシュ、米軍と海上自衛隊の艦船からなる艦隊は、

負傷者を降ろし、最低限の補給を受けるべく真珠湾へと入港した。

ハワイへの上陸は認められなかった。最短で補給を済ますべくあらゆる人員が多忙を極めていた上、基地の外に出るのは危険であった。

高速で地球に向かって飛来してくる大型彗星の情報は箝口令が敷かれていたが、

三日前、ついに複数のアマチュア天文家によって発見され、ネットを通じて情報は一気に広がった。

国連はこの情報を開示するタイミングを逸し、各国政府と国連が結託して情報を隠していたとして非難が集中した。

アメリカ、ロシア、中国などが彗星に向かって核ミサイルを発射したが、なんの効果もなかった。

世界中で暴動が起こった。

デマや不確実な情報に踊らされた群衆が政府機関への襲撃や暴動、略奪を繰り広げた。

怪しげな宗教団体が終末の時が来たれりと叫び群衆パニックを煽る。

金持ちは自前のシェルターに逃げ込んだり、比較的安全という噂のあったチベットに向かったりした。

南国の楽園ハワイも例外では無く、基地の外は無法地帯と化していた。

ゲートへ押し寄せる群衆とにらみ合う基地守備隊を横目に、半日にも満たない寄港で艦隊は再び太平洋に出た。

 旗艦たる原子力空母カール・ビンソンは空母としての役割を失い、かろうじてヘリの離発着ができる程度の状況であったが、

水上戦においてギョジンガーの足場となることを期待されて満身創痍の身に鞭打って艦隊を率いていた。

実質的な艦隊司令となっているホーバス・ブレインもオーベッド・マーシュを部下に任せてカール・ビンソンに乗り込んだ。

先の戦闘で失われた戦力を補うべく、真珠湾ですぐに動かせる艦は全て半ば強引に艦隊に編入されていた。

 夜刀神のヘリポートにヘリが着艦すると、魔術結社E∴O∴D∴のグランドマスターであり、この事件に関する合衆国大統領と国連事務総長の全権委任者、

ホーバス・ブレインが降り立った。ブレインは摩州光藏に用があるとかで、直接夜刀神に乗り移って来たのだった。

一時間ほど人払いをした士官室で二人は話し合い、その後ブレインはギョジンガーZの様子を見たいと言って格納庫へやってきた。

先日の戦闘で格納庫の天井部分のハッチが歪んで閉まらなくなってしまっているので、

ハッチの隙間を塞いで張られたビニールシートが海風にはためいて不快な音を発していた。

 ギョジンガーの整備を手伝っていた剛太に、ブレインが声をかける。

「ギョジンガーZの調子はどうだね?」

二人は同時に窮屈そうに格納庫に横たわる巨人を見上げる。

「ほとんどの装甲が全損ですからね。予備の装甲材なんかを全部使っても胴体部分くらいしか覆えませんでした。

もうあと二時間もすれば例の目的地に着くんでしょう?敵さんも放っといちゃくれないだろうし、ここらで切り上げて後は出撃準備しますよ。」

見れば周囲の整備班の人間達も道具を仕舞っていく。

いざスクランブルがかかった時にあちこち作業中では話にならない。作業の潮時なのだろう。

「じゃあ、俺も着替えて出撃準備で待機しますんで、これで。」

立ち去ろうとする剛太をブレインは呼び止めた。

「待ちたまえ。お守りだ。これを持って行きなさい。コックピットのシート下にでも突っ込んでおけばいいから。」

そういって剛太に一冊の本を渡した。

それは何かの皮で表紙を装丁された古い本だった。

全体を染みや虫食いが覆い、どれだけ古いものなのか見当もつかなかった。

表紙にはうっすらと漢字らしきもので題名が記されている。螺湮城教本。

「何て読むんですか、これ?」

「どうせ適当な当て字だ。その文字に表意文字としての意味は無い。我々英語圏の人間はR'lyeh Textと呼んでいる。」

「例のルルイエと関係があるんですか?」

今にも崩れそうなボロボロの古書を慎重にめくってみる。

染みと虫食いだらけのページにはぎっしりと毛筆の漢文が並んでいた。

到底剛太の手に負えるものではない。

「こんなの読めませんよ。漢文はマジ苦手なんですよ。勘弁してください。」

そう言って本を返そうとする剛太を制してブレインは言った。

「お守りだと言っただろう?いいから持っておきなさい。その時が来れば必要になるだろうから。」

そう言ってブレインは剛太の元を離れ、ヘリに乗ってカール・ビンソンへと乗り移っていった。


 剛太がギョジンガーZのコクピットに座って30分もしないウチにに警報が鳴り響いた。

ブレインに渡された古書をサバイバルキットと共にシート下に押し込み、ギョジンガーZを起動させる。

毎度のごとくモニターに表示されるThat is not dead whitch can eternallie,With strange eons even death may die.の文字。

夜刀神のブリッジから通信が入る。

「北西方向から敵接近。接触まであと8分。ギョジンガーZは発進後カール・ビンソン甲板上で待機。」

「了解。」

仰向けに横たわった巨人の上半身を起こし、天井部のハッチをこじ開ける。

開閉機構が完全に壊れたハッチは、もはや開閉の度にクレーンかギョジンガー自身によって開け閉めするしかなくなっていた。

ハッチの隙間を塞いでいたビニールシートが風に飛び、金属の擦れる不快な音を響かせて扉が開く。

鉛色の空が覗き、大粒の雨が格納庫内へと吹き込む。

狭い足場でなんとか立ち上がったギョジンガーZは背中から生えた翼を広げて空中へと飛び上がり、瓦礫の山みたいなカール・ビンソンの甲板に降り立った。

既に発進していたグレートギョジンガーが翼を広げて上空を旋回している。

明確に飛行ユニットとして開発されたグレートギョジンガーの翼と違い、

前回の戦闘中に「勝手に生えてきた」ギョジンガーZの翼はどこまでの性能があるのか不明で信頼性は皆無だ。

よって今回はギョジンガーZはカール・ビンソンの甲板上で対空攻撃に徹し、空中戦はグレートに任せることになった。

カール・ビンソン艦載機が全滅した今、艦隊の保有する空中機動兵力は2機のギョジンガーのみである。

状況次第では剛太も空中戦に加わることになるだろうと覚悟していた。

そもそも女子に前衛を任せておいて男子の自分が後方からの援護というのは、男の子としては沽券に関わると感じていた。

この態勢が定着してしまったら、自分はますます絵里の尻に轢かれたまま頭が上がらなくなるのではないかという現実的な不安もある。

じっとりと嫌な汗が滲む額をぬぐって操縦桿を握り直す。

ギョジンガーZの装備は前回と同じく大型レールガン「グングニル」と大型ククリ。

外装を失ってしまったのに伴い、外装にアタッチメントで装着する装備は全て使用不能になってしまった。

グングニルのエネルギーは馬鹿みたいに太いケーブルでカール・ビンソンの二機の原子力発電機から供給されている。

 鉛色の雲が空に蓋をするかのように低く立ちこめ、大粒の雨が横殴りに機体を叩く。

装甲を失い剥き出しになったギョジンガーZの「中身」に雨があたってヌラヌラと輝く。

軟体動物の触手と様々な動物の臓物と筋繊維をより合わせたような手足。表面に浮き出た血管が規則的に脈動している。

所々金属製の人工物が埋め込まれている姿は吐き気を覚えるほどグロテスクだった。

「接触まであと3分。」

敵機の姿は未だに肉眼では見えないが、次々と対空ミサイルが発射されていく。

「接触まであと2分。」

剛太はギョジンガーZに片膝をつかせ、北西方向へと銃口を向けて構えた。

「接触まであと1分。」

今回の戦闘では艦隊のイージスシステムとギョジンガーZのFCSのリンクに発生した不具合を修正しきれなかったため、

攻撃はあくまでギョジンガーZが直接捕捉できた目標に限られる。

低くたれ込んだ雲と雨によって視界が悪い。

グローブの中で手の平に汗が滲むのが判った。

上空で閃光。稲光ではない。上空のグレートギョジンガーによるビーム攻撃だ。

ギョジンガーZには搭載されていない、大出力のビーム兵器。それが曇天の空を白く染める。

「1機そっちに抜けた!」

通信機から絵里の声が響く。

唇を噛み締めて操縦桿を握り直す。一瞬の後、雲を切り裂いて相手が姿を現した。

相模湾上空で撃退したドラゴンタイプの黒い方だ。

だが、その大きさは前回より二回りほど大きくなったように見える。どうやら装甲や武装を増加したようだ。

前回吹き飛ばした下半身はギョジンガーZの手足と同様、触手とも臓物とも見える生物的な器官が大量に垂れ下がっていた。

上半身を覆った鎧の前面が一斉に開く。

「マズイ!」

直感的に危険を感じた剛太は黒いドラゴンへとレールガンを発射する。

腹部を直径90ミリのタングステン弾で貫通されてもドラゴンは構わず艦隊へと突っ込んでくる。

開いた鎧の奥には無数の砲口が覗いていた。

それらが一斉に火を噴く。

何条もの光線が降り注ぎ、次々と軍艦を刺し貫いていく。

燃料庫か弾薬庫に直撃を受けたのか、空母の隣を併走していた駆逐艦が大爆発を起こす。

剛太は第二弾を発射したが、側面からの爆風に銃口が振られて弾はあらぬ方向へと逸れていった。

艦隊から対空砲火が上がるが、黒竜は上昇して雲に隠れる。

艦隊の背後に回り込んで再び雲から現れると、全身の無数の砲口が火を噴いた。

直撃を受けたイージス艦が爆散し、撒き散らされた重油が海面に火を広げる。

再び黒竜は雲の中へと逃れた。

これで艦隊は目を潰されたに等しい。イージスシステムによる火器管制なしに、ろくに視界も確保できない悪天候下で高速飛翔体と戦うなど、絶望的だった。

それでもなんとかレーダーに映った敵影に向かって剛太はトリガーを引く。手応えはなかった。

敵の声が味方の通信に割り込んでくる。

「はは、ざまあないなダゴン!貴様ごときこのフルアーマー・ツァールの前ではまな板の鯉に等しい!貴様に受けた雪辱と同志達の恨みを思い知れ!」

「お前はあの時の奴か!」

剛太にはその敵の声に聞き覚えがあった。

鎌倉での最初の戦闘。あの時に鎌倉を火の海にし、ギョジンガーZを捕獲しようとした敵のリーダーだ。

焼け落ち、瓦礫の山と化した鎌倉の光景を思い出す。

病室に入りきれず廊下にまで溢れた負傷者の人達を思い出す。

家族や友人を失って悲嘆に暮れる人達を思い出す。

ドラゴンが三度雲から姿を現し、カール・ビンソンへと砲口を向ける。

「うぉぉぉぉぉぉ!!!」

雄叫びを上げながら剛太は突っ込んでくる敵機に向けてレールガンを連射した。

敵の砲口が光った、と思った時には吹き飛ばされていた。

水面に叩き付けられ、そのまま海中に沈んでいく。

サブモニターが機体の損害を表示する。

左腕と左脚は根元から無くなり、胴部のなけなしの装甲も全て無くなっていた。

右手はレールガンを掴んだままだったが、グリップと機関部を残すだけで砲身はなくなっていた。

レールガンを放し、右手で水を掻いて姿勢を安定させる。

腰の後ろに固定した大型ククリは奇跡的に残っていた。

残された右手に剣を持たせ、一気に海面へ向かって上昇する。

途中すれ違った巨大な金属塊はカール・ビンソンの残骸か。

上空でもう一機の相手をしているグレートギョジンガーが心配だった。

ギョジンガーZは海面へ出ると同時に翼を広げ、灰色の雲海へ向けて上昇した。


 上空では絵里の乗るグレート・ギョジンガーとエイベル・キーンの乗るロイガーが死闘を演じていた。

火力に勝るグレートギョジンガーがビームを連発しても、運動性に勝るロイガーはそれを難なく躱して反撃してくる。

ロイガーの火力はそれ程強くは無いとは言え、徐々にダメージが蓄積されていく。

音速を遙かに超えた速度で飛び回る黄色のドラゴンを追ってドッグファイトを続ける絵里に、背後からの攻撃が襲う。

想定外の攻撃に回避が間に合わず、右膝に直撃を受けてバランスを崩す。

その隙にグレートを振り切ったロイガーが頭上へと回り込んだ。

背後には、あちこち被弾して満身創痍ではあるが黒いドラゴンが砲口を向けていた。

上空のロイガーも手に持った巨大なショットガンをこちらへと向ける。

全力でペダルを踏み込みつつ操縦桿を傾ける。同時に二機の敵が攻撃を放つ。

間一髪で直撃は免れたものの、背後からの攻撃で左の翼をもがれ、上空からの散弾が胴体正面装甲をえぐり取った。

「キャァァァァァァ!!」

悲鳴を上げながらも必死に機体を制御する。今ここでパニックになるわけにはいかない。

そう自分に言い聞かせながら失速した機体を立て直そうとする。

艦隊へと向かった黒い方がこちらに戻ってきたということは、ギョジンガーZや艦隊はどうなったのか?

まさか、剛太も、血のつながりはないとはいえ父も死んでしまったのだろうか?

頭の片隅でそんな疑問が渦巻く中、必死に操縦桿を操作する。

翼を片方失って姿勢が安定せず、高度がどんどん落ちる。

上空から急降下して追撃しようとする二機の後ろに、巨大な彗星が見えた。

ハスターだ。もう、こんなに接近していたのか。時間が無い。早くこの二機を倒さなければ。

「ギョジン・ビィィッィィィム!!」

やぶれかぶれにビームを発射するが、二機はひらりと躱す。

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

突然通信機から響いてきた雄叫びに振り返ると、左腕と左腕を失い、外装もなくしたギョジンガーZが物凄いスピードで上昇してくる。

高度を下げていくグレートギョジンガーとすれ違い、残った右腕に大型ククリを振り上げて上空の二機へと向かって行く。

グレートの始末を後回しにした二機がそちらへと砲口を向ける。

「剛太、危ない!!」

そう絵里が叫んだ瞬間、二機のドラゴンの背後の上空で閃光が巻き起こった。



 超弩級恒星間飛行宇宙空母レイク・ハリのブリッジは次々と起こる激震に揺さぶられていた。

地球圏に接近する前に受けた核攻撃は5発に過ぎず、レイク・ハリに大きな損害はなかった。

おそらく核弾頭を搭載して外宇宙まで飛ばせるロケットを総動員したのだろうが、

核弾頭はともかくロケットにそれほど在庫はなかったのであろう。

しかし衛星軌道に侵入してからは、絶えず核ミサイルが襲ってくる事となった。

この高度に打ち上げられる規模のロケットやICBMなら、各国とも人類を抹殺して釣りがでるほどの量を保有しているのだろう。

それらが惜しげもなくレイク・ハリへと向けて放たれる。

「彼らは我々が地球人類を滅ぼしに来たとでも思っているのかね。まったく。」

ラバン・シュリュズベリイが肩をすくめる。核攻撃に慌てた様子はない。

この艦にのっている限り、人類の造った兵器にどうにかされる恐れはないだろう。

「だが、少々煩わしくはあるな。」

そう言って黄衣の王が軽く手を振った。

すると、何本もの触手と臓物がねじくれあったかのようなレイク・ハリの巨体から一本の蝕椀がほどけ出て、

レイク・ハリへと向かってきたミサイルをなぎ払った。

蝕椀に殴りつけられたミサイルはレイク・ハリの後方へと吹き飛ばされ、大気圏へ突入して爆発した。

巨大な火球がレイク・ハリの後方に広がる。

ネイランド・コラムが操舵を握りながら背後に振り返る。

「あそこ、着陸目標地点の辺りですよ。もっともあと何周かしながら減速しなきゃ着陸できませんが。」

ラバン・シュリュズベリィが何か言いかけたが、黄衣の王が制した。。

「何、露払いだ。ルルイエ近海にいた有象無象どもが吹き飛んだのなら好都合だ。」

古くからの同志であるアンドリュー・フェランとエイベル・キーンがそこで作戦行動中なのを知るシュリュズベリィとコラムは苦い思いで王の蒼白の仮面を見つめた。


つづく







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