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子育て勇者と魔王の子供  作者: マオ
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子育て勇者と魔王の子供・78

 引っ越しは無事終了。まぁ、荷物と言ってもオーラが作ってくれた無限に入る袋があったため、それほど重労働ではない。

 家具も、叔父叔母が使っていたものをそのまま使うことにした。年数が経っていても、傷んでいる物はほとんどない。かなり質のいい家具なのだろう。祖父母の知り合いからの贈り物らしいが。

 逆に時間を重ねた良さが出ているくらいだ。百年くらい経ったら、アンティークとしても結構なシロモノになりそうである。

 大工だか家具職人だかの知り合いがいるらしい祖父母。知り合いが多い。

「にーちゃん、ばーちゃんがおちゃにしようって!」

 イリックが呼びに来た。祖母のお菓子作りを手伝っていたらしく、頭に粉がついている。

「ああ、ありがとう」

 言いながら、イリックの頭の粉をぽんぽんと払う。

「イリック、粉がついて白髪みたいだぞ」

「え、しろい? かっこいい!?」

「いや、まだらだからあんまりかっこよく見えない。後で水浴びしような」

「うん!」


 居間に行くと、イリアが真剣な表情でクッキーを皿に取り分けていた。

「どうしたんだ、イリア?」

「おにーさんにはわたしがつくったくっきーをたべてもらうのです」

 どうやら、イリアが形を整えたクッキーを選んで皿に乗せているようだ。幼児が作ったクッキーである。形は推して知るべし。

 ひょいと口に放る。生地は祖母が作ったものだし、焼き加減も祖母が見たのだろう。味は普通にクッキーだ。形だけが、イリアの想いを込めたもの。

「……美味しいよ」

「ほんとですか!?」

「うん、美味しい」

 可愛いな、と、思う。


 ※※※


 午後。双子は昼寝の時間だ。ぽちを敷いて安らかに眠っている双子を置いて、ユーヤはちょっとだけ隣家へお邪魔する。ノックをしても返事がないので、ドアを開けてみた。

 居間のソファで元魔王が突っ伏している。今日はなんだ。熱か、貧血か、腹痛か。

「お邪魔します。おい、生きてるか?」

「うう……額を強打した上に足をくじいた……おのれ、絨毯め……絡まっているとは……なんたる伏兵」

「……あー、そう」

 足を取られてソファにむかってスっ転んだらしい。毛足の深いじゅうたんに負ける元魔王。お前本当に魔族なのか。

「それはどうでもいいか。あのな、話があるんだが」

「む? 師匠が話? ……ハーレムのことか?」

「そっちから離れろ。俺はそんなもんを形成する気はない。イリアのことだよ」

「娘? おお、幼女まで手を広げる覚悟ができたのか」

「……………………あながち的外れじゃないところが余計に腹立つ気がしてきた」

 ハーレムを形成するつもりはないが『お宅の娘さんを僕にください』的な宣言をしにきたので、見透かされたようで気に障る。

 ごほ、と、咳払いをして、気持ちを落ち着けた。

「とりあえず、だな。俺、イリアが大きくなるまで待つつもりだ」

「お……お? おおお!?」

「イリアが大きくなったら、どういう状況になるかは分からない。イリアの気が変わる可能性だってあるからな。そのときは、潔く身を引いて、幸せを祈るつもりだけれども」

「おおおおおおお!!」

「とりあえず、まぁ、その……いろいろとあるかもしれないが、俺も先走った真似はしないから、そちらも先走ったりしないように――」

「妻ー!! 妻ー!!! 師匠がとうとう娘に堕ちたぞー!!!」

「って言ってるそばから暴走するなっ!!」

 すぱぁん! と、元魔王の頭をひっぱたく。


 もと まおう に 1260のダメージ!

 もと まおう は あたまをおさえてうめいている!


「……ぬ、くく……さすが勇者……素手でもダメージ高いな……」

「じいちゃんの剣ならこの三倍はダメージ出せる。あれ、名剣だからなー、地味に。じいちゃんがどこから手に入れたのか、ひそかに気になってる」

 にこやかにユーヤはこぶしを握る。

「次はこぶしで殴るぞ。ダメージが1.5倍になると思え」

「嫁候補の父をなぐり殺す気かっ!?」

「そもそも最初は倒す気だったんだ。ツッコミが剣じゃなく平手やこぶしなだけありがたいと思ってくれ」

 相手は魔王だった男で、こちらは勇者と呼ばれた男である。殺伐としていない今現在が不思議だ。告げると、元魔王は恨めし気な目でこちらを見た。

「……暴力的な男はモテないぞ」

「元魔王が言うな。というか、俺は別に暴力的じゃない。暴走しがちな連中が周りにいるだけだ」

 殴ったりどついたりするのは、元魔王かぽちくらいのものである。ぽちなど、最近では双子からのオシオキのほうが圧倒的に多いので、ユーヤが突っ込むことなどほとんどなかった。

 ……ぽちより、元魔王をどついた回数のほうが多い気がする。

 ちらりと思ったことは脳内から追い出して、ユーヤは真顔になった。

「真剣に、将来を考えてる。できうることなら、イリアの傍に居られたら、と思うから。まぁ、あんたを義理の父と呼べるかどうかは置いといて……イリックが義弟になるのも嬉しいし」

「ほうほうほほほう」

 フクロウのような声で、元魔王が頷く。今更だが、威厳も何もない。魔王でしたと自己紹介されたら、誰もが「あはははは、それ笑える」と冗談にしか思うまい。

「で。とにかく、隣に越してくることにしたので、どうぞよろしく」

「お、お隣さんになるのか。よろしくよろしく、義理の息子よ」

「気が早いぞ……」

 機嫌よく言い切る元魔王に苦笑して、勇者は手を差し出す。


「できれば、末永くよろしくお願いします」

「こちらこそ。じゃじゃ馬の娘とわがままな息子に、元魔王である舅と死の化身の姑がついてくるが、くれっぐれもよろしく頼む」

「うん、ちょっとよろしくしたくなくなるような紹介だが、分かってるからその辺は流すことにする」

 握手を交わして、互いに苦笑した。


「俺、アンタを倒すために長い旅をしたんだけどなぁ」

「うむ。こちらも勇者を倒すためにいろいろと策を練ったのだがな」


 思うことは、今は一つ。


「……アンタを手にかけるようなことにならならなくて、良かったよ」

「病に感謝をしよう。あのおかげで洗脳から逃れられたようなものだ。妻にはしこたま殴られたが」

 現在の魔王は確かにたくさんの人を殺し、死なせた。

 大魔王という存在が、魔王を作り出して世界を征服させようとしたためだ。

 しかし、大魔王はもう、無い。人々を苦しめ、死なせた魔王という存在も、無い。

「落ち着いたら、各地の復興に手を貸そうと思っている」

 と、元魔王は言う。

「人間を死なせたのは事実だ。洗脳のせいだと逃げることはできるが……そうすると、今度こそ妻に離縁されそうでな」

 どこまでも奥さんが怖いらしい。まぁ、確かに怖い。

「あと、娘と息子がな。こう……父をもうちょっと敬ってほしいというかなんというか」

「ああ……うん、頑張れ」

 子供たちにぽちと同レベルに扱われるのは、さすがに嫌なようである。

「幸いにも協力者はいるのでな。うむ。娘との仲を邪魔するようなこともないので、ゆっくりと愛を育んでくれ。あ、きちんと婚姻するまで避妊はしろよ」

「話が飛躍しすぎだッ!!」


 ゆうしゃのこぶしのいちげき!

 かいしんのいちげき!!


 もと まおう に 3800のダメージ!

 もと まおう は ゆかにしずんだ……。


「……全く……」

 本当にこの元魔王は、しょーがない。

 しょうがないが、イリアの父だ。

 仕方ない。

 深く息をついて、ユーヤは元魔王をソファに寝かせた。

「……あとは、夜、奥さんに少し話をしなくちゃな」


 第一関門は突破した。

 次は、第一関門よりはるかに手ごわい第二関門である。

自覚したら行動力あるぞこの勇者!?(おい作者)

両親や双子たちがやっていた周りからの地固めを、今度は勇者がやり始めたことにびっくりした作者です(待て)

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