子育て勇者と魔王の子供・77
朝、祖父のところに行った。
自分の想いを、どうしたいのかを告げたら、祖父は笑って肩を叩いてくれた。祖母は優しく笑ってくれている。とりあえず、幼女好きの変態と誤解されなかったことに安堵した。
「お前がそうと気付いた気持ちを大事にしなさい。だが、相手のこともきちんと考えないといけないよ」
「そうね、今は釣り合う外見だけど、内面はまだまだ子供だものね」
気持ちが本物なら待ちなさい、と。
「……そうだね。うん、分かってる。気長に待つよ」
心が固まった今となっては、待つことも大事だと分かっている。
彼女が大人になるまで、待とう。
もしかしたら、気持ちが変わって大人になったら振られる可能性もあるが、そうならないために努力もしなくては。
ほかの男に取られないように。
「……競争率高いから、魔王退治より頑張らないといけないかもなぁ」
苦笑すると、祖父母も笑った。
「で、相談なんだけど」
「おう、なんだ」
「同居の件、本気でお願いしたいんだ」
以前祖父から打診された同居。王都とかに出て兵士や、実家の居候よりは祖父の畑を継いでしまいたい。魔王退治の勇者改め、農家に転職。それも悪くない。
「まぁ……嬉しいわ。みんな巣立って行ってしまって寂しかったのよ」
と、祖母。遠くに住んでいる子や孫もいるが、大体は魔法を使って連絡を取れる状態ではある。それでも、子だくさんだった祖父母だ、同居でないと寂しかったのだろう。
「じいちゃん、畑のことも、もっと教えてほしい」
「おう。ビシビシ鍛えてやるからな」
和やかに話をして、さっそく祖父母の家の掃除を手伝った。オーラがまだ部屋を借りているらしいが、彼女も部屋からあんまり出てこないので何をしているのか。カリスは相変わらず『彼女』を追いかけているし。
昨日あたりから『彼女』も達観したのか、あしらいが上手くなってきたようだ。
『彼女』にとってもカリスにとっても、神父に誤解されることだけはないように、祈っている。
奥の部屋の掃除をしていたら、にぎやかな声がした。
「おじゃまします! じーちゃんばーちゃん、にーちゃんきてる!?」
「おじゃまします! おにーさーん!」
……声が、幼い気がする。
あれ? と、思ったら、部屋に双子が駆け込んできた――幼児の姿に戻って。
「あ、イリア、イリック……元に戻ったのか」
ちまっとした可愛らしい四歳児の姿に、ホッとしたのが半分、ガッカリが半分。自分の気持ちに苦笑いするユーヤである。自覚したらエライ変わりようだなと自分で思った。
「おにーさーん! あさおきたらもどってました! なんてこったいです! おとーさん、くすりつくるさいのうがないです!!」
「もどっちゃったー!! ちくしょー!! おんなじくすりもらおうとおもったら、とーちゃんへやにかぎかけてた! ちえついてる!」
自分の父親に対して微妙に酷い感想をもらしながら、双子はユーヤの足にしがみついてきた。
「おとなになったとおもったのにー!! まおうになろうとおもってたのにー!!」
「おとなのうちにきせいじじつをつくろうとおもってたのにしっぱいしたですー!」
姿だけが大きくなっても、かくれんぼや川遊び、農作業で喜んでいたのだから、魔王にも『きせいじじつ』にも遠かろう。中身は幼児のままだということである。
よしよし、と、頭をなでてやりながら、ユーヤは笑った。
「急いで大人にならなくていいよ。ゆっくり大きくなっていけばいいさ」
大丈夫。俺は待ってるから。待てるから。
「……おにーさん?」
イリアが見上げてくる。
「なんか、ふんいきがかわりました……」
「そうかな?」
自分ではわからない。
「にーちゃん、なんかあった?」
「いや、別に」
心が固まったというだけだ。
覚悟ができたというだけだ。
首をかしげている双子に、ぽんぽんと頭を叩いてやって。
「明日あたりから、俺、お隣さんになるから」
「えっ!?」
「にーちゃんひっこしてくんの!?」
「うん、まぁ。同じ村のちょっと歩いたところから引っ越すってのも、なんだか変な気がするけど」
双子が表情を輝かせた。ぴょいぴょいと跳ねながら、ユーヤの服を引っ張る。
「あしたからおとなりさん!?」
「おにーさんとおとなりさんですか!?」
「そうだよ。よろしくな」
無邪気に喜ぶ双子を見て、可愛いな、と思った。
今はもう、兄のような気持ちになっている。イリアが成長した時に、また、あの気持ちになるのだろう。今度は、あまり動揺せずにできるだけ格好よくいたいものだ。男の見栄である。
「よろしく!」
「よろしくです!」
しゅぱっと手を上げる双子に、笑顔で告げた。
「うん。末永くよろしく」
これから長い付き合いになるだろうから。
お引越し。気持ちが固まった勇者は強いぞー。あのじいさんの孫だからね!(笑)




