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子育て勇者と魔王の子供  作者: マオ
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子育て勇者と魔王の子供・73.6

「ちょ、ちょっとイリックくん! 来て!」

 納得がいかない。何故急に『赤い糸』が切れたのか。

 恋の女神が紡ぐと言われる『赤い糸』、オーラの分だけ切れたのか。

 気になることは調べてみよう。まがりなりにも賢者を目指すものとして、興味深いことは調べるに限る。

 ……決して、生涯独身が嫌だったからとかそんなことはない。

 生涯独身が嫌だからではない。ないったらない。


 嫌な顔をするイリックを無理矢理引きずって、オーラは村を回った。こっそり家の陰から例の女性三人を覗き見てもらう。オーラには『赤い糸』が確認できないのだからしょうがない。

 結果。

「ねえちゃんたちみんなきれてたなー」

「ほんと!? ほんとにほんと!?」

「きれてた。イリアだけきれてないの、なんでだ? あれか? にーちゃんのよめけってい?」

 ぶつぶつ言いながら考え込んでいる美少年を横に、オーラは苦い表情になる。

 自分だけが切れたわけではないようだ。もしかして、ユーヤの知り合いだった三人の女性もこの感情の変化を味わっているかもしれない。

 ……恋の終焉。

「……女神様サボってる……?」

 恋の女神が仕事をボイコットしたのだろうか。それにしてはイリアの『赤い糸』が切れていないことが気にかかる。イリックのつぶやき通り、何かが決まってしまったのだろうか。


『何か』――ユーヤの相手、が。


 昨日なら、胸が痛かったかもしれない。

 しかし、今は失恋したと思ってもそんなに衝撃ではなかった。

 幸か不幸か……胸の痛みが、薄い。ないわけではない。ちくりとうずくような痛みは確かにある。けれども、立ち直れないほどではなかった。しばらくは痛いだろうが……耐えられないほどでもない。

「……うーん……」

 恋の女神が何を考えているのか、少し知りたいと思うが、知るためには天界にお邪魔しなくてはいけないだろう。まだまだ人生をあきらめているわけではないので、天界に行く=死ぬ気はない。

「……うーん……」

 好きな人に相手ができたのなら、幸せになるように応援するのが当たり前だ。当たり前なのだが。

「イリアちゃんなのかぁ……うううーん」

 元・魔王の娘。現・死の化身の娘。人間ではないし、強力な力を持っている存在。

 ――そこらあたりはどうでもいい。

 ユーヤは勇者とまで称される人間で、強さも尋常ではない上にお人よし、相手が人外だろうと包み込める器量がある。そんな男だからオーラも惚れたのだ。

 だからイリアが人外なのはどうでもいい。


 問題は、四歳ということだ。


 今は薬の効果でユーヤより少し年下くらいの年齢に見えるから、お似合いと思える。

 実際は、四歳児。年の差カップルどころか、ナニかあったら犯罪レベルだ。少なくともイリアが成長するまでの十数年はイロイロと待たなくてはいけない、はず。それ以前に、薬の効果が切れたら戻ってしまうのだ。外面は完全に犯罪になってしまう。

「ユーヤさんが犯罪者扱いされちゃうじゃない……!」

 やばい。まずい。ついさっきまで、恋をしていた相手が犯罪者扱いされるのは、広い意味で嫌だ。

「ううーん。どうしたら……」

 悩むオーラに、イリックが少し不思議そうに話しかける。

「ねえちゃん、イリアとにーちゃんのおうえんしてくれんの?」

「え」

「らいばるだったのに、おうえんすんの? どんだけおひとよし?」

「う」

 呻いてから、苦笑いするオーラだ。

「そうね。でもね、やっぱり好きな人には幸せになってもらいたいでしょ。私ね、結構イリアちゃんのことも好きなのよ。イリックくんのこともね。まぁ……いろいろされたけど……二人とも一応加減してくれてたんでしょ?」

 イリアやイリックに邪魔をされたことは多々あるけれども、一度も怪我をしたことはない。せいぜい、服が汚れたくらいだ。恐るべき力を持つ魔王の双子だが、ぽち以外に危害を加えないのは、きっとあのお人よし勇者の影響だ。


「ふーん」

 イリックはにやりと笑った。オーラの顔を少し上から覗き込んでくる。十年ほど成長したら、簡単にオーラの身長を抜かすのだ、この子供。オーラは少しのけぞった。整った顔が近い近い。なんでこんなに美形なのこの子ら。いやいやいやいや四歳児四歳児四歳児。祈りのように繰り返すオーラに、イリックが告げる。

「ねえちゃん、しなないていどにいじめられるのすきなんだ。まぞ?」

「違いますっ!」

 即座に反論した。全力で反論した。

「えー? でも、いま、おれにどきどきしたろ?」

「っ! してませんっ!」

「へー、ふーん」

 楽しそうにニヤニヤしているイリックだ。からかわれている。分かっているのに顔が熱い。

「いじめられんのすきなら、おれがまおうになったときにいじめてやるけど」

「好きじゃないって言ってるでしょ!? 違います! あと魔王を目指すのはいけません!」

「ねえちゃん、にーちゃんみてーなこといってる」

「世間一般では魔王はいけないことなの! 君のお父さんを見習っちゃ駄目っていつも言ってるでしょ!」

 成長したイリックは、いつものようにオーラの言うことなどどこ吹く風だ。けろりとしている。


「ねえちゃん、まおうになったら、おれのはーれむにいれてやろうか?」

「ちょ、ほんとに顔近いっ! あのねぇイリックくん!? 魔王になるのも駄目だけど、ハーレムはもっと駄目!!」

「かおまっか。おとななのにへんなのー。ねえちゃん、やっぱいじめられるのすきだろ?」

「ちーがーいーまーすー!!」

 全力で言い返すオーラの反応を楽しんでいるらしい。イリックは微妙にサドのようだ。

 さきほどから楽しそうな笑みが消えない。オーラをいじるのが楽しいのだろう。恐るべし四歳児。

「イリックくん! 大人をからかわない!」

「いやだって、ほんとにねえちゃんいじめられるのすきだろ?」

「違うって!」

「ほんとにー?」

「本当に違いますっ!」

 何度目かの全力否定に、イリックは楽しそうに爆弾発言。

「でも、いま、ねえちゃんからおれにむかってあかいいとでてきたけど」

「えっ!?」

「おれにどきどきしたろ?」

 瞬時に首筋まで赤くなるオーラである。そうだ、イリックには『赤い糸』が見える。意識していることが瞬間で分かるのだ。

「う、え、あ、ち、ちが、違うの違うの」

「へー、ふーん、ほー」

 イリックが楽しそうなわけである。オーラが反応していると理解しているのだ。

「うあ……!」

 性質が悪い。オーラは心の底から叫びたくなった。


 なんでドキドキしてるのよ!? 四歳児よ!? どんだけかっこよく姿が変わっても、魔王の息子よ!? そんでもって今までものすごく邪魔された相手でしょ!? どんだけないがしろにされてたと思ってんの私!? そんな相手に『赤い糸』って冗談でしょ!?

 ユーヤさんだけじゃなくて私も犯罪者になるじゃないのーーー!!


 耳の先まで赤くして大動揺しているオーラを見て、イリックは肩を揺らして笑っている。

「ねえちゃん」

「はいっ!?」

「なんかかわいーな」

「へっ!?」

「うん、おれがまおうになったら、ねえちゃんはーれむいれてやるよ。ねえちゃんにもかわいいところあるんだなっておもったから」

 得意げに笑っているが、駄目な宣言である。あわててオーラは両手を振った。

「ちょ、駄目! ハーレムは駄目って言ってるでしょ!?」

「えー? えーっと、じゃあ、あれだ。だいいちふじん?」

「っ……!!」

 多分イリックは言葉の意味を分かっていない。分かっていないが、四歳児からのプロポーズだ。

 図らずして、ユーヤと同じ立場になってしまったオーラである。

 あうあう、と、言葉が出てこない。相手がイケメンすぎてどう反応したらいいのか、脳がオーバーフローした。

 そこに。

「イリックー、おにーさんとのでーとがおわったので、わたしはそろそろおうちにかえりますよー」

「あ、イリアとにーちゃんだ」

 腕を組んで寄り添って歩いてくるユーヤとイリアが近づいてくる。ユーヤは疲労困憊している様子だ。彼の心境が、今のオーラにはよく理解できてしまう。

 分かります、分かりますよ、ユーヤさん……どうしよう、これ。そんな心境である。


 双子のイリアがおかまいなしのように、イリックも相手の反応にはおかまいなし。至極マイペースに言い切った。

「にーちゃん、イリアー、おれもかえるー」

 ユーヤとイリアのほうに歩き出そうとして。

「ねーちゃん」

 楽しそうに――彼は告げた。


「がんばって、おれにあかいいと、むすんでみなよ」


 ぼふん。オーバーフローを通り越して、何かがぶっ壊れた気がした。


 ※※※


「ユーヤさん」

「お、オーラ? どうしたんだ? なんか目の下、クマがすごいよ、大丈夫か?」

「大丈夫です。私、これから魔王のところにしばらく弟子入りしますから」

「は!?」

「ええ……うフフ……犯罪者扱いは嫌ですものね、お互い。ウフフフふふふ。ダイジョウブ、任せて下さいウフフフフフ」

「ええええ!? オーラ、本当に大丈夫か!?」

「ダイジョウブ、兄も一緒ですからフフフフ」


 ※※※


「魔王、薬の作り方を教えてください」

「は?」

「成長薬です。私が改良して効果を固定します。永続的に」

「え」

「レシピを出してください。ちゃちゃっと出す!」

「おい、なんか怖いぞこの娘!?」

はい、二組目。ほーら、オーラは不幸にしなかったでしょ?(え)

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