子育て勇者と魔王の子供・9
「王子と姫を渡せ!!」
「何の脈絡もなくなんか出た!?」
「脈絡もなくとは何だ!? 何度か近寄ろうとしただろうが!!」
……次の日の夕方、薪を集めていると、いきなり魔物に襲撃された。幸い、子供たちは少し離れた場所にいたので、巻き込まれることもないだろうと、ユーヤは剣を抜く。
昨夜の気配はこいつだったのか。何もせずに遠ざかっていったあの気配。
四足歩行で獣型の魔物だ。油断なく剣を抜くユーヤに、魔物は更に言う。
「勇者ユーヤよ! 王子と姫を渡せ!」
「なんでだ」
「なんでもなにも、少し考えれば分かるだろう! 渡せ!」
「なんでだ」
「お前少しは考えろ!」
魔物にいわれた。ちょっとムッとするユーヤである。実は考えなくても分かっていた。おちょくっていただけである。この獣魔物は、魔王の子供を手中にし、魔物の中で自分の地位を高めようとしているのだろう。次代の魔王を狙っている可能性もある。
魔物の、後継者争いというヤツか。その辺りは人間も魔物も変わらないようだ。
「あの子達を権力争いに巻き込む気か」
「考えたか。人間のクセに一応知恵はあるようだな」
……ものすごくバカにされている気がする。
「それはどうでもいいが、あの子達をいらぬ争いに巻き込むのは感心しない。魔王にあの子達のことを頼まれたのは俺だ。あの子達はまっとうな魔物に育てる!」
「まっとうな魔物というのがなんなのかわからん」
魔物に突っ込まれた。漫才をやっているつもりもないのだけれども。
「王子と姫は魔王の直系! 多大なる力を持つ存在! 人間などに預けておけぬわ!!」
「魔王が預けたのは俺だ! お前らに預けられんと思ったんだろ! 信頼されてないなお前ら」
「ぬわっ……よ、余計な指摘をするな!」
どうも、図星だったらしい。魔王、実は人材に恵まれていなかったのか。それとも、主だった側近をユーヤが倒してしまったのか。
ちょっと魔王に同情しつつ、ユーヤは気配に気付いた。子供たちが戻ってくる。まずい。
「人間が魔物を育てられるわけがあるまい! やがて手に負えなくなって殺すだろう! なにせ貴様は父君の魔王を殺しに来た人間だ! 王子と姫も無残に殺すに違いないわ!」
「勝手に決めるな! 俺はそんなことはしない!」
じりじりと魔物は距離を詰めてくる。子供たちが戻ってくる前に、決着をつけねば。
……と、思っていたユーヤの耳に、声。
「あー! にーちゃんがおそわれてる!!」
「おにーさんからはなれなさいへんなまもの!」
同時に、目前の魔物が炎に包まれ、その上からツララが落ちてきた。炎はイリック、ツララはイリアだろう。
「おげー!」
悲鳴を上げる魔物が、ごろごろ転がる。子供たちがユーヤに駆け寄って、彼をかばうように手を広げた。魔王の子供に庇われている勇者。なんか間違っているような。
「あ、いや、えーっと、別に俺が襲われていたわけじゃないんだけど」
「え、だってへんなまものじゃん? にーちゃんにんげんだし、きっとにーちゃんのことたべようとしてんだぜ。おっぱらわないと」
「そうです。おにーさんたべられたらたいへんです。とってもいたいですよ」
「違うわぁああああっ!! 我輩は王子と姫を保護しようとしたのです!!!」
ぼろぼろの魔物が悲鳴を上げた。
「なんでだよ。おれたちのよーいくひもらったの、にーちゃんだぞ」
「なんでですか。わたしたちのほごしゃはおにーさんです。おまえじゃありません」
子供たち、一刀両断。
「さっさとかえれ」
「しっし、です」
にべもない。同じ魔物だというのに扱いがひどい。
「ああ……そんなところが魔王様にそっくり……綺麗な顔して容赦ない……素敵」
焦げながらうっとりする魔物。変態だ。即座にユーヤは判断した。
「散れ変態!」
思い切り剣を振り切る。剣から放たれた衝撃波が、魔物を吹き飛ばした。
「おのれぇえええぇええ覚えていろぉおおおおお~~」
変態は空の彼方に消えていった。
改めて、魔王の子供たちを護らねばと思った勇者である。
それなりに、子供たちも狙われます。