子育て勇者と魔王の子供・73
今回短いです、すみません。
愛らしい少女が、小首をかしげる。目の前には、彼女の父親。
ふらつく元魔王を背負って実家に戻り、双子に飲んだ薬は害がないと言うことを説明した。持続性もないということも、説明してもらった。
「いっかせいってなんですか」
「ん? 何日かすれば元に戻ると言うことだ、我が娘よ」
「おとーさん」
「ん?」
「くすりのこうかがきれないようにするにはどうしたらいいですか」
「んん? だからだな、この薬は」
「へんじは『はい』しかききません。どうしたらいいですか」
「……うむ、さすが我が子。ばっちり魔王の後継っぽい」
「イリアずるいぞ! まおうになるのはおれ! とーちゃん!」
「うむうむ、なんだ、我が息子よ」
「くすりつくりなおせ!」
「え、命令?」
……和やかな親子の会話を耳にしつつ、ユーヤは安堵の息を吐いた。
元魔王からの、体に異常は出ないと言う断言に安心したのだ。ユーヤは安心したものの、双子は納得しなかった。
「おとなじゃないとおにーさんをほかのおんなにとられるです!」
「イリアのおいろけがきくあいだにけっこんさせちゃうんだ! そんでおれ、ついでにまおうになる!」
「おおお、師匠の嫁になると言うのか娘よ。険しい道だぞ、何せ魔王でもできなかったハーレムを簡単に形成するような」
「人聞きの悪いことを言うなっ! 俺はそんなもの目指してないし作ってないっ!」
咄嗟にその辺の本をひっつかんで元魔王に投げつけた。
元魔王にかいしんのいちげき!
元魔王はきぜつした!
「……あ、とーちゃんしんだ」
「おとーさん……よわすぎです。せめてくすりをつくりなおしてからしんでほしいです」
ドライな双子の声を聞きながら、ユーヤはひきつった。この元魔王、本当に芯から虚弱だ。
今度は呆れのため息をつきながら、元魔王をソファに転がす。毛布の一枚でもかぶせてやらないと、また冥界に逆戻りしそうだ。多忙な奥さんが激怒するかもしれないので、しっかりと毛布をかぶせてやった。
「あー、なんか、疲れる……」
何故に父親の面倒まで見なくてはならないのか。子守は引き受けたが、どうしてこんなにややこしい状況になっているのだろう。
「おにーさん、つかれてるですか」
「っ、疲れてない疲れてないっ! 腕にしがみつかないでいいからっ!」
密着してくるのはどうにかしてほしい。妙に顔が熱くなるのだ。動悸も激しくなる。いやいや、相手は四歳児四歳児四歳児。
祈りのように何度も唱える勇者である。
「うでくみはいやですか」
「いやというか、いやあのな」
「では、だきつきます」
「もっとダメだーーー!」
押せ押せ積極美少女である。外見だけは成長しているので、見かけだけなら実にお似合いなのだが、中身四歳。犯罪である。ユーヤはとにかく諭すことにした。
「あのな、イリア。君はまだ子供で」
「じっくりしてたららいばるがおおすぎます」
「いやだからね? 君はまだ」
美少女、諭す言葉もどこ吹く風。さらりとかわしてのけ、自分の要求を口にする。
「きすしました。あとはあれです。こんやくゆびわです。えいえんのあいをください、おにーさん。いしはしんじゅがきぼうです」
「どこで覚えてくるんだ本当に。誰だ変なことばっかり教えたのは!?」
「イリア、こんやくゆびわはだいあもんどがきほんだぞ」
「これはうっかりしつねんしてました。では、だいあもんどがきぼうです、おにーさん。だいじょうぶ、おとーさんからたくされたよういくひなら、でっかいだいあもんどもよゆうです」
……ユーヤは元魔王の毛布をはぎ取りたい衝動に駆られた。
いっぺん、奥さんとよ~~~く話し合ってほしい。いろんなことを。
「あのなぁ、イリア、イリック……」
肩を落として口を開くと、イリアが背伸びをした。
ちゅ。
頬に柔らかな感触。
「っ!?」
「すきだらけです、おにーさん。ぼーっとしてたらきすしますよ」
「いいいい、イリアっ」
「おにーさん」
にこりと、綺麗に少女は笑う。
「くすり、こうかがずっとつづいたほうがよかったって、こうかいしますよ?」
勇者はひきつった。
何故だか――彼女には勝てないんじゃなかろうか、そんな風に思ってしまったからである。
書いてて悶えた。
らぶって難しい……。




