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子育て勇者と魔王の子供  作者: マオ
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子育て勇者と魔王の子供・72

 何度かお宅に出入りしたので、目的の相手がどこにいるのかは把握している。

「魔王ぉおおお!!」

 寝室のドアを蹴り開けて叫んだ。熟睡していたらしい元魔王がビクンと痙攣する。

「ぬぉっ!? なんだどうした浮気はしていないぞ!? ほほほ本当ですよ!?」

 何か夢を見ていたようだが、どうでもいい。飛び起きてこちらを見た元魔王は、拍子抜けした顔になった。ユーヤだったことに安心したのか。

 元魔王が勇者の顔を見て安心するのもどうだろう。

 一瞬そんなことを思ったが、考えている状況でもない。ユーヤは元魔王に掴みかかった。

「自分の持ち物の管理くらいしっかりしておけぇ!!」

「なっなんだ!? なんのことだ!?」

 起き抜けで状況を把握していない元魔王の襟首をつかみ、睨みつける。

「イリアとイリックがあんたの部屋を掃除していて、変な薬をかぶって成長した! 今のあの子たちは十歳ほど年を取ってる! 中身そのままでな!」

「なんだとぉおお!?」

 元魔王も声を張り上げた。

「私の秘密のお部屋に入ったのか!? どうやって!? あの子たちの手の届かない場所にノブを設置していたのに!」

「厳重に鍵かけてなかったのか!?」

「あ」

 あ、って。

 あって言いやがった、この元魔王。こめかみがひきつるのを感じながら、ユーヤはゆっくりじっくりと元魔王の襟首を絞め上げていく。

「おい、こら。いたずら盛りの子供がいるっていうのに、怪しい部屋に鍵もかけてなかったのか。手の届かない場所だって何か物を使えば届くだろうが。あの子らは頭も良いんだぞ、父親のくせにそんなことも気付いてなかったのかこの野郎」

「うおおおお、じりじり絞めるなぁ……死ぬっ……死ぬっ」

 じたばたする元魔王に物騒な笑顔でユーヤは言う。

「解毒剤は?」

「ちょ、ま、本当に絞まって、しぬ、ごげぇ」

「げ・ど・く・ざ・い・は?」

「……」


 へんじがない。ちっそくしているようだ。


 酸欠の金魚みたいに口をパクパクする元魔王に気が付いて、ユーヤは手を緩めた。本当に死なせてしまっては元も子もない。よくもうちの旦那をと、奥さんにしばき倒されそうな気も、する。

「げっほがはがは! 本当に殺す気か勇者!? 今一瞬怪訝な顔をしている妻が見えたぞ!?」

「あー、奥さん忙しそうだなー。で、解毒剤は」

 もう一度咳込んで、元魔王は顔をしかめた。

「急に言われてもな……どんな薬を飲んだのか、部屋を確かめないと言えん」

「……桃色の薬だって言ってたぞ。良い匂いがして、口に入ったらしいけど、意外と美味しかったとか」

「うーむ……思い浮かぶ薬はあるが……ちょっと待て。部屋を確かめてくる」

 元魔王はよろよろとベッドから出た。足取りはおぼつかない。元魔王の威厳も何もない様子である。

 ユーヤはなんとなく、後をついて行った。途中で力尽きそうな気がしたからだ。

 広くもない一軒家、寝室を出たら、廊下を少し歩いた先に、開いたドア。天井付近にノブがある。なるほど、あそこなら子供は手が届くまい――足がかりに何か使わない限り。

 ドアが開いていると言うことは、双子は何か足場になるものを使ったのだろう。それっぽい椅子などは近くに見当たらないが、あの子らは魔力を自在にする。イリアが氷でも作り出せばそれで十分だ。

「……鍵、つけろ。厳重なのを」

「……そうしよう」

 半眼で元魔王の背中に告げると、気の重そうな返事があった。

 よろよろと中に入る元魔王を追って、部屋に入る――なり、元魔王が悲鳴を上げた。

「のぉおおおお!?」

「!? なんだどうした!?」


「わ、私のコレクションがごっそり無いぃいいいいいい!?」


 蒼白になる元魔王の視線の先を追うと、本棚があり、棚の大半が空だった。

「……コレクション? 何を集めてたんだ」

「苦節三十年、妻に隠れて集めてエロ本が」

「………………」

 ユーヤはさらに冷たい目になった。いや、まぁ、男としてしょうがないとは思う。思うが、そんな本を置いてある部屋に鍵もかけないで放置していたと言うのは駄目だろう。

「お前な……子供たちが見ちゃったらどうするんだよ!?」

「良い勉強になるだろ。それよりも、誰が持って行ったのだ!? 私のコレクション!?」

 こいつもう一回死んだほうが良いんじゃないかという気分になってきた。

 何を勉強させる気だ四歳児に。というか、子供たちの異変をどうにかするのが先だろう。コレクション云々はその後だ後。

「いいから解毒剤!!」

「ううう……プレミアものもあったのに……泥棒め……見つけたら魔界の業火を呼び出して火あぶりにしてやる……」

 しくしく泣きながら、元魔王は本棚の隣にある棚に向かった。ざっと見ただけでも薬ビンが三十個ほど。閉じられている戸棚の中にもあるとしたら、相当数だ。

 もっとも、頭からかぶったと双子は言っていたのだから、戸棚の中は関係ないだろうが。

「ふむふむ……お……やはりここにあったやつか……?」

 在庫確認をしていて、無くなった薬が何か把握したようだ。


「しかし……おかしいな。おい、勇者」

「なんだ?」

「うちの子供たちは頭からかぶったと言ったのか?」

「ああ。口にも入ったとは言ってたけど」

「ここにあった成長剤は、飲み薬だ。かぶっても効果はないはずだが」

「……少しだけ飲んだからか?」

「十歳ほど成長したのだろう? ならば少なくとも半分の量は口にしたはずだが……アレは大体一瓶ぶんで二十歳ほど年を取るはず……?」

 元魔王は首をひねっている。用量があったらしい。元魔王の説明が本当なら、双子はかなりの量を口にした、と。

「まぁいい。どちらにせよ大したことではない。解毒剤も必要ないくらいだ」

「え、そうなのか?」

「あれはただ単に肉体の年齢を進める薬だからな。あくまでも薬で、魔術ではない。永続的な効果はないのだ。放っておいても効果は切れる」

「……そ、そうなのか」

 てっきり、ずっとあのままなのかと思っていた。心配のし過ぎだったようである。

「うむ。大事ない。隣の薬だったらオオゴトだったが」

「え」

「……隣の薬はな、一時的に若返る薬だからなぁ……」

 四歳児がかぶって口にしていたら、エッライことになっていた。ぞわっとしたユーヤである。


「お前……本当に鍵かけろ!! なんなら魔術でも魔力でもいいから生半可では開かない感じの鍵を!!」

「そうする。うう……私のコレクション……」

「いやそれはいいから。というか、何でこんな薬を置いてあるんだ!?」

「え、そりゃあ元美女だったと言い張る老婆を戻したり、将来有望そうな美幼女を成長させたりとか、確かめることがあるだろ、いろいろ」

 そうだった。この元魔王、ハーレムがどうこうとか言い張るような男だった。うっかり忘れていたユーヤは、深く深くため息をついた。

 双子が口にした薬は、一過性の効果しかないと知って、安心した。

 ……ちょっと残念な気がするのは、何故だろう?


 ※※※


 そのころ、裏庭では、ぽちが必死に穴を埋めていた。

 イリアとイリックの命令で、元魔王の『コレクション』を埋めているのである。

 バレたら魔界の業火で火あぶりになることを、今のぽちはまだ知らない……。


旦那のプライベートルームだったため、奥さんもエロ本には気付かなかった模様(笑)

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