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子育て勇者と魔王の子供  作者: マオ
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子育て勇者と魔王の子供・70

 『彼女』は楽しそうにクスクス笑っており、オーラは顔を赤くしたまま何も答えてくれない。

 一体自分に関してどんな話をしたのか、気になってしょうがないユーヤだったが、『彼女』には答える気がないのだろう。ユーヤをからかうのが楽しいのかもしれない。

 カリスとの印象も、敵対というわけではない、ようだ。

 ユーヤは『彼女』がどれだけの戦闘能力を持っているのか知らないので、カリスが何かしようとしたら全力で止める気ではある。

 『彼女』とカリスのどちらにつくかと言われれば、間に入る。ユーヤにとっては、どちらも大事な仲間だからだ。

 さて、どうしよう。『彼女』のほうはユーヤが無理に説得などする必要はなさそうだ。カリスに言いすぎたことも反省している。多分、謝ってほしいと言えば謝ってくれる気がする。

 問題は、カリス。結構な勢いで頭が沸騰していたようなので、あれを冷却するのは手間がかかりそうだ。

「……えーと……まぁ、カリスとどうこうするつもりはない、んだよな?」

「ないわよ。そんなことしたら神父さまに説教されちゃう」

 と、『彼女』はくすぐったそうに笑う。友情の神の教会に住み込んでいるのだから、他者を拒否することなどほとんど、ない。ない、はずだ。

「ならいいよ。俺も別にあなたが何かしたと思ってたわけじゃなくて、カリスがなんであんなに勢いよく来たのか気になっただけだし」

 オーラがまた頭を下げた。

「すみませんすみません! 兄が本当にご迷惑をおかけしました! 賢者として頼まれて出張して、あちこちで魔物の被害を見てて……それで余計に魔物に対して過敏になってるみたいで……」

 カリスにも理由があるのだ。呪文の使い手、知識の宝庫として各地から救援を求められて、それこそしょっちゅう出歩いているだろうあの賢者は、魔物による被害を知っている。

 どれだけの命が喪われたのかも、知っている……。


「それならなおさら、こんな村があるとは思わないわよねぇ」

 しみじみと、『彼女』が言う。

「みんな仲良しこよし、なんて、理想郷みたいだもの」

 ほんわかと、微笑む。

「こんなに穏やかな毎日なんて、ほんと、夢みたい」

 実感のこもった声だった。だから、ユーヤもうなずく。

「ほんとにそうだよな……」

 たくさんの魔物を手にかけた。魔物に殺された命を見てきた。ほろんだ村も、町も、国も。

 ……まぁ、魔王がああなったのはなんだかいろいろとこう、思うこともあるが。

 結果として、殺さなくて良かったのかもしれない。今、彼は元魔王という身でこの村に戻った。彼を操っていたらしい大魔王とやらも連行されて、このまま平和になるだろう。

「まぁ……なんというか……平和がいいよ、うん」

 穏やかな、平穏な毎日が、当たり前に続いてほしい。そういう毎日が、誰の元にも訪れてほしい。

 今は、人間だけではなく、魔物たちにもそう思う。双子と長く旅をしたせいだろうか。

 人間にもいろんな人がいるように、魔物にもいろんな魔物がいるのだ、と。


 ――とかなんとか、シリアスな実感に浸っていたら、誰かに呼ばれた気がした。

「おにーさん!」

「にーちゃん!」

 ……知らない声に。

 誰だろう、と、目をやると、ユーヤよりいくつか年下に見える少女と少年が手を振ってこちらに走ってくる

 良く似ている二人だ。兄妹だろうか。どちらの頭にも角。そして、少女のスカートからはふさふさのしっぽが見えている。

 二人とも、えらく美形だ。どちらもこの村では見たことがない顔の気がするのに、どこかで見た気もするのは何故だ。というか、なんでか目が離せない。

 少年と少女はユーヤに駆け寄って、輝くような笑顔でこちらを見上げてくる。

「にーちゃん! おれたちでかくなった!」

「おにーさん! あらためてけっこんしてください!」

 待て。

 この言動から察するに、この二人はひょっとして。

「……も、しかし、て……い、イリックと、イリア……か?」

「はい!」

「うん!」

 すばらしく整った顔の双子は、誇らしげな笑顔のままでうなずいた。


「ええええええーーー!?」

 オーラが絶叫している。ユーヤも気持ち的には彼女と同じ心境だろう。

 ちょっと待て。昨日の夜家に送るまでは双子は普通に四歳児だった。

 昨夜から今朝、今までにかけて、双子に何があったのだ!?

「え、いや、あの、ちょ、なにがどうしてこうなった!?」

「おお、にーちゃんがすげーどうようしてる」

「まぁ、とうぜんです。ふつうのはんのうです」

 言いながら、成長して十代半ばほどになったイリアは、ユーヤの腕に腕をからませてきた。小さなころは小さな手を精一杯伸ばしてきたのが、今は腕を組めるほどになっている。

 というか、なんか良い匂いが。いや待て。待て。これはイリアだ四歳児だ。

「いいいいい、イリア!?」

「はいです」

「なんで腕を、腕を!?」

「? いやですか?」

 小首を傾げられた。そのしぐさに、何故か胸がうるさくなる。

「い、いや、いやじゃないけどもっ」

 なんで俺こんなに焦ってるんだ? ユーヤは自分の鼓動が激しくなっていることにうろたえた。


「……イリア、いけるぞ」

「そのようです」

 イリックがにやりとし、イリアも嬉しそうに笑っている。

「えええええ! えええええ!? えええええーーー!?」

 オーラは動揺したまま絶叫中。

 そのとき、だった。


「ほっほほ~♪」


 どこかで聞いたような女性の笑い声がした。

 が、その場で気が付いたのは、『彼女』だけである。

 気が付いた『彼女』は……納得顔をした後に、苦笑しただけだった。


ああ……やっとここまで……これからああしてこうしてああなってとか、まだもう少し続きます(え)

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