子育て勇者と魔王の子供・69.5
今回は双子の視点なのでひらがな多いです。読みづらくてすみません。
そのとき、事件は起こった。
凍らせたぽちの背中で、調子よく棚の掃除をしていた双子の頭上に、薬ビンが落ちてきたのだ。
とっさにイリックが風を起こしてビンを受け止めて、壊れるのを防ぐ。
「おー、びっくりしたー。はたきがけあぶねー」
「くすりがいっぱいのたなですね。このくすりはなんのくすりですか」
イリアがビンに貼られていたラベルを読む。
「……イリック、これです。わたしがおとーさんのへやでさがしていたものはこれです!!」
「え、ほんとか!?」
イリアが見つけたかったものが、その薬ビンだったようである。
「くすりであるとはおもいませんでした。まほうてきなものをそうぞうしてたです」
「うん、おれも。でもくすりであったならいーじゃん」
「いいですね」
「おれものむ!」
「いっしょにのみますか。そうですね、しなばもろともです」
何やら悲壮な覚悟を示すイリアに、イリックはどんと胸を叩く。
「だいじょうぶだ! おれたちしんでもかーちゃんがふっかつさせてくれるし!」
「そうでした。おかーさんがしょっけんらんようしてくれるです。だいじょうぶですね」
母が死の化身である双子。大丈夫だ、死んでも生き返れる、と思っているようである。実際に父親の元魔王が生き返ってきているので、そう思っても無理はないが、危険な思考ではある。
「いちおう、ねんのためにぽちをふっかつさせておきましょう。なにかあったらおにーさんをよびにいかせます」
「そーだな。かーちゃんかえってくるのおそいし、とーちゃんまだねこんでるし、にーちゃんのほうがたよりになるしな!」
凍り付いていたぽちが、業火に包まれた。
「おぎゃああああ!」
悲鳴を上げるぽちが床を転がりまわるのを静かに見守って、双子は手の中の薬ビンを見下ろした。
「ぽち、いいですか。わたしたちがしろめをむいてたおれるようなことがあったら、すぐにおにーさんをよんでくるです」
「けいれんとかしたらにーちゃんよんでこいよ」
「お、王子、姫!? 一体何事でありますか!? 吾輩、ちょっと状況が把握できないのですがっ!?」
こんがりと焦げた匂いを放ちながら、ぽちが目を白黒させる。ついさっきまで問答無用で凍らされていて、意識も凍結しており、力技で解凍されて回復したのはいいが、展開についていけていないのだ。
「わたしとイリックはこれからうんめいのかみにしょうぶをいどむのです」
「どっちかってーと、とーちゃんにけんかうるかんじじゃねー?」
「そうですか? ……おとーさんにけんかをうったほうがかてそうですね。そっちにしましょう」
微妙に、父親の扱いが酷い。
焦げたぽちを連れて、父の秘密の部屋を出る。ホコリを立てるだけ立てて、掃除は放棄した模様。
キッチンのテーブルに移り、自分たち専用のいすに座って、双子は緊張した様子で薬ビンの蓋をはがした。
花の香りのような、甘い香りが立ち上る。
「……いがいと、うまそう?」
「おちゃみたいなにおいですね。くすりのいろがももいろなのがちょっとふあんだったですけど、おいしそうです」
「にがくねーといいな。おれ、にがいくすりのみたくない」
「わたしもです。にがかったら、あとでおにーさんにあめだまをもらいましょう」
「だな」
相談しながら、コップに薬を注いでいく。
「これ、どのくらいのめばいいですか?」
「わかんねー。はんぶんこでいいいんじゃねー?」
分量が分からないので、適当に半分にする。
「王子、姫、何が何やらよく分かりませんが、その、魔王様を起こされるか、ご母堂がお戻りになるのをお待ちになったほうが……シャクですが、勇者の小僧を呼んできても」
心配になったのかぽちが言うが、いつものように無視された。通常運転である。
「イリック、せーのでのみましょう」
「よし、わかった」
「「せーの!!」」
ごくん。
…………………………。
「おおおおお、王子!? 姫ぇええぇええええ!?」
ぽちの絶叫が室内に響いた。
何を飲んだのでしょう?




