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子育て勇者と魔王の子供  作者: マオ
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子育て勇者と魔王の子供・66

 釣った魚を昼ごはんに食べて、午後からは祖父の畑へ。

「じいちゃん、来たよ」

「おお、手伝いありがとうな」

 玄関のドアを開けて呼びかけると、祖父は奥の部屋から出てきた。続いて祖母も。

 奥の部屋で何か話でもしていたのだろうか。祖母はユーヤを見て苦笑している。

「? ばあちゃん? 俺の顔に何かついてる?」

「いいえ。今ちょっとおじいちゃんとあなたの話をしていたの」

「俺の話?」

「ええ」

 祖母は笑顔を苦笑から微笑に変えた。いつもの優しい祖母の顔だ。この様子では困ったことではない、だろう。ではユーヤに関して一体どんな話をしていたのか。気になる。

「え、どんな話を」

 訊くと、祖父が笑った。

「ああ、まぁ、大した話じゃない。お前が村に帰ってくるのなら、実家に暮らすのじゃ狭いだろう? 兄貴が結婚して家を継いでいるし、兄夫婦に子供ができたら家も広いほうが良い。だからな、お前がうちに住めばいいんじゃないかという話をな」

「え」

「部屋は余っとる。子供らは独立したからな。お前ひとりくらい住んでも広いものだよ」

 ユーヤは瞬いた。住むところ。確かに、実家のユーヤの部屋だったところは物置になっており、今は客間に寝ている。両親と兄が物置を片付けるから待っていろと言ってくれてはいるが、わざわざ片づけるのも大変だろうと気が引けていたところだ。確かに祖父母の申し出はありがたい。

 兄は立派に家を継いでおり、そのうち子供もできるだろう。両親もまだまだ元気だし。


「え、でも、いいのかい?」

「勿論、手伝いはしてもらうぞ? 俺の畑をお前に譲っても良いが……お前、農業のノウハウなんぞ知らんだろう。畑を譲るのはびしばし鍛えてからの話だ」

 祖父は楽しそうに笑っている。

「にーちゃんのじいちゃんばあちゃん、ぐっじょぶ!」

「ありがとうございます、おにーさんのおじいさんとおばあさん!」

 なぜか双子が喜んでいる。

「にーちゃんがおとなりさんになるんだよな!」

「おとなりさんです! すぐにあえます!」

 ……それで喜んでいるらしい。実家にいてもそんなに遠いわけでもないし、この村だって小さなものだから、そこまで喜ぶことではない気がするが、慕われているのは素直に嬉しい。

「ま、決まりというわけじゃあない。案の一つだ。良く考えるといい」

 と、祖父。選択肢の一つをさっそく示してくれた。さすが年の功。ユーヤは尊敬の念を覚える。勇者などと人から呼ばれてきたが、祖父にはかなわないと思った。

「ありがとう、じいちゃん、ばあちゃん。考えてみるよ」

「ええ、決めるのはいつでも良いわ。あなたに任せるから」

 と、祖母。どこか吹っ切れたような笑顔である。何か心が軽くなるようなことがあったのだろうか。


「ま、その話は今はいいさ。畑の手伝いをしてくれるんだろう? 双子ちゃんたちもじじいを手伝ってくれるのかな?」

「おれ、てつだう! はたけってなにすんの?」

 イリックが手を挙げた。畑仕事など当然したことがないはず。それでも楽しそうだ。

「おお、元気がいいな、坊主。よーし、まずは、道具を畑まで持って行く」

「どうぐですか? どんなどうぐですか?」

 イリアも好奇心に目を輝かせている。祖父はおおらかに笑って、外を示した。

「納屋にあるよ。重たいものもあるぞ。嬢ちゃんに持てるかな」

「おもたいですか。がんばります」

「おれもがんばる!」

 双子はやる気満々だ。良い教育になりそうである。祖父母は子だくさんだったせいか、さすがに子供の扱いが上手だと思った。

「そうかそうか。百人力だな。よーし、頑張ってもらうか。ユーヤ、行くぞ」

「あ、うん」

「後でお菓子を作って持って行ってあげるわ。頑張ってね」

 祖母に見送られて、改めて農作業に出発した。


 祖父の畑は、相変わらず豊作だった。ユーヤも村を出てから初めて知ったのだが、世の中には凶作というものがあるのだ。実は、この村では凶作だったことがない。実りの女神の加護がある土地なのだよと、村の住民はありがたがっている。本当のところは村の人たちの農作業の腕前が異常に良いということなのだろうと、ユーヤは思っている。多分間違ってない。多分。

「よーし、まずは草取りからだぞ。これとこれが取ってほしい草だ。分かるかな」

「これですね。わかりました!」

「え、こっちのくさとちがうのか?」

「イリック、こっちの草は人参の子供だから取っちゃ駄目だよ。雑草……取ってほしい草はここのところがとがってるから」

 子供のころによく手伝っていたので、ユーヤでも草の見分けぐらいはつく。ただ、あくまでも子供のお手伝い程度だったので、上手に育てるワザなどは知らない。

「ユーヤ、お前はこっち側の草刈りを頼む」

「分かったよ、じいちゃん」

 刃物は危ないので双子には持たせない。草を引っこ抜くのは任せて、ユーヤは草刈りに回った。畑の周りで伸びているツルなどを刈り取っていく。祖父の畑は周囲の雑草なども伸びるのが早い。

 おそらくこの辺りは土がとても良いのだ。植物がエラく早く伸びたり、季節感を無視して生えたりするのは、祖父の知り合いの、実りの女神を信仰しているおじさんの仕業かもしれないが。

 ときどき、祖父が双子を褒める声を訊きながら、ユーヤはのんびり農作業を手伝った。


 魔王を倒すために頑張ったあの旅が、嘘のようなのんびりした日。

 こういう日常を護るために、自分は頑張ったのだ。

 魔王の病死という意外な結果に終わったけれども。

 あまつさえ子供を預かったりしちゃって、一緒に旅をしてきたけども。

 その魔王が元魔王になって同じ村にいるけれども。


 とにもかくにも、平穏な日常である。

 こういう日も、大事だよなと、思った。

……なにやら、こう……周囲からじわじわと……何かを固められている気配がしないかい、勇者よ……?(笑)

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