子育て勇者と魔王の子供・8
「にーちゃんさー、なんでゆーしゃになったんだ?」
歩きながら、イリックに訊かれた。
「ゆーしゃはまおうのてきってとーちゃんいってた。なんでゆーしゃになったんだ?」
答えにくいことを訊かれ、ユーヤは一瞬言葉に詰まった。
魔王に虐げられている人々を救いたかった。苦しんでいる人たちを助けたかった。
故郷が魔王に滅ぼされた。家族も親戚も殺されてしまった。
なんとかして、世界を変えたかった――とかいう殊勝な理由ではない。平凡に生まれ、平凡に育ち、ただ、なんとなーく田舎育ちで力だけは強かった。畑仕事よりは都会に出て兵隊になったほうが、可愛い嫁も見つかるんじゃないかと親に進められて都会に出てみた。
腕っ節が強かったので、兵隊採用の試験には何とか受かった。常識がなかったので筆記試験は本当にぎりぎりだった。
何の変哲もなく、兵士になった。ものすっごく下っ端だったけれども。
そこからいきなり出世することもなく、平凡に仕事をしていた。魔物退治とか。
「……別に目指したわけじゃないけどなぁ……」
目指したわけじゃない。かっこいい活躍をしたわけじゃない。
ただ、魔王が現れて、各国を襲い始めたとき、戦わないとと思ったのだ。
勇者を名乗るものはたくさん現れた。が、魔王の城までたどり着いたのはユーヤだけだった。
「かっこ悪いだろうけど、別に理由はないよ。俺はね、ただ、自分のわがままのために魔王をやっつけようとしただけだから」
「わがままってなんですか?」
「家族を護りたかっただけ」
故郷にいた家族を護りたかっただけだ。これが恋人がいるからとか、姫と恋仲だったからとか、勇者らしい理由なら格好良かっただろうけれども、故郷にいるのは祖父母と両親と兄とその嫁と姉とその婿くらいなもので、ユーヤ自身に浮いた話は全くなかった。
世界平和とか、壮大なことを考えていたわけでもない。ただ、小さなものを護りたかっただけで、それが結果的に大きなものを護ることになったのだ。
「まぁ……君達みたいな子のこと考えると、魔物にも家族はいたんだよな……」
自分が倒してきた魔物も、家族を護るために生きていたのかもしれない。
うなだれるユーヤに、イリアが不思議そうに見上げてくる。
「おにーさん。まものはかぞくなんていません」
「へ?」
「まものはこどもをうんでもそだてません。ほっときます。そだてるのはにんげんだけで、ほかのいきもののことをきにするのもにんげんだけです。へんないきものです」
「え」
「にんげんってへんー」
「へんです」
「へ、変かなぁ……?」
「へんです」
「でも、ほら、魔王は君達の事俺に任せたよ?」
悪の化身でも、子供は可愛いのだとちょっと見直したのに。
「おとーさんはへんなまものなだけです」
「とーちゃん、めっちゃくちゃへんなまものなんだ。よくみんなに言われてた」
子供には一刀両断されていた。
「へ、変かな……」
「へんです」
「へんー。でも、おれ、とーちゃんけっこうすきだった」
「わたしもけっこうすきでした」
「……そっか……」
子供たちの目の前で戦わなくて良かった。魔王は病死したけれども、戦わなくて良かった、と、今少しだけ思う。
「けっこうだけど」
「けっこうですけど」
「……それ、どのくらい好きってことなんだ?」
「あんまり」
「てきとうにです」
「…………そうか……」
子供たちはドライだ。魔物って、何を考えているのかちょっと理解しづらいと思うユーヤであった。
ひどい扱いの魔王(笑)