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子育て勇者と魔王の子供  作者: マオ
78/117

子育て勇者と魔王の子供・64.6

※今回はほとんど会話文です。

 ――時間は少々さかのぼる。


「やぁ、おはよう。仕事に行く前に少し話があるのだが、時間をもらえないか?」

「おはよう。ええ、いいわよ」


 親友同士の話は、ひそやかに行われる。


「実はだ、君の末の孫を、娘の婿にくれないか」

「え」

 イキナリの話に、彼女は困惑する。

「……年の差がありすぎない? それに、孫の気持ちも――」

「彼は、勇者だろう?」

 死の化身は、死を告げるときの冷酷さをうっすら漂わせて言う。


「勇者は、いうなれば世界の生贄いけにえだ。誰もが倒せない魔王を倒すことのできる唯一の存在。孤独の道行きを歩むもの。魔王を倒したならば、その力が救った者たちから恐れられる……勇者という名の、世界の生贄」


「……」

「だが、彼は幸いにも魔王を倒さずに済んだ。私の旦那が病気に負けたために、魔王を倒すと言う呪いのような偉業を達成せずに戻ってこれた……大魔王の魂も、今は冥界に連行され、シオキの最中だ」

 いつもなら、出された茶を飲むが、口を付けず、死の化身は続ける。

「彼は幸運だ。だが、一度勇者の名を背負った者に、世界は冷たい。特に、人間ならば」

「……そういう人間たちだけではないわ」

「そう。優しい人間もいる。君の旦那のように、君がどういう存在なのか知っていても愛する強さを持っている人間も、いる。愛情は強い。千の言葉、万の行動よりも不確かなのにな。が、彼の周囲にはまだ、そういう存在がいない」

 トンと、細い指がテーブルを叩く。


「彼の周囲にいる、彼に好意を持っている娘は、恋の神ミミユが与えた祝福の効果で、彼に好意を持っているに過ぎない」

 指摘された彼女は、苦い表情になった。

「……ミミユにはなんとかさせようと思っているわ」

「うむ。だが、ミミユがなんとかするとも思えない。彼女はあれを祝福と言っているからな。私から見たら、呪いだ、あれは」

 とん、と、もう一度テーブルが叩かれる。

「だが、私の子供にあの呪いは通用しない。私と旦那の子だからな。ミミユの祝福を撥ね退けたうえで、私の娘は彼を好いている」

「まだ四歳でしょう。孫は成人年齢よ」

 あきれた様子の彼女に、死の化身はニコリとほほ笑む。


「十五年後はどうかな?」

「あなたの娘が年頃でも、孫は中年でしょう?」

「そうだろうか? 彼は勇者だ。それだけの実力を持っている。すなわち……一番神の力を強く継いでいる。主神ゼオ、母神エニフィーユを曾祖父母に持ち、女神ディオレナを祖母に、夜の神エクトを大叔父に持っている」

「私の夫は人間よ。私の子供とその伴侶も人間よ。あの子もまた、人間だわ。それに、私は女神そのものではない。現出した、ただのカケラ」

「力がないわけではない。しかし、君は君の旦那が世を去る時に、一緒に世を去る覚悟をしている。そうなれば、神の力が一番強い末の孫を、誰が護る? 君が世を去るころにはエクト神も伴侶を喪っているだろう。君もおらず、伴侶もなくしたのならば、エクト神も天界へと去るはずだ」


 三度、テーブルが叩かれる。

「ただの人間が、彼を護れるか? 彼は強い。確かに強い。勇者の名を背負えるだけの力がある。そんな彼を、支える存在が必要ではないか? 私の子供たちには力がある」

「……必要なのは力ではない、そうは思わないの?」

「心だな。それは、彼自身が私の子供たちを育ててくれている。そうして、育った後に彼が私の娘を選んでくれればいい」

「……孫次第よ。私は孫の意思を尊重したいの」

「うむ。私も子供たちの意思を尊重したいので気持ちは分かる」


「だから、婚約という形でだな」

「……今私が言っていたこと、ちゃんと聞いてた?」

「うむ。その上で頼んでいる」

「……だから、孫の意志一つよ。私は強制しないし、したくないの」

「孫がミミユの呪いを撥ね退けられなくてもいいのか?」

「…………あなたの娘が大きくなったら、ミミユの祝福に負けるかもしれないわよ?」

「それはない。今の時点で大丈夫なのだから、たとえ年頃になっても――」

「それ以前に、大きくなった娘さんが、ほかの男性を好きになる可能性は考えている?」

「む」


「…………あのね、あなたの娘さんはまだ四歳よ? 大きくなったらおにいちゃんのお嫁さんになるって言ってても、実際成長したらほかの男性に目が行くことだってあるの」

「むう」

「だからね? もう少しよく考えて――」

「うむ。やはり既成事実だ! しっかりと婚約させて周りから固めるしかないな」

「…………お願いだからちゃんと話を聞いてくれる?」


「しかしな、娘がほかを見るとも思えんのだが」

「そんな保証はないでしょう? 気持ちも心も変わるものよ。成長期ならばなおさらだもの」

「よし、わかった。ちょっと天界に行って来よう」

「え、待って。何をする気?」

「時間の神にかけあって、未来を覗いてくる」

「それは禁じ手でしょう!?」


 ……孫が可愛い祖母と、娘が可愛い母親との戦いは、いましばらく続きそうだった。


 ――そして、時間は元に戻る。


おばあちゃんとかーちゃんの攻防!

周りから固めに来ているぞ死の化身!

勇者逃げてー、超逃げてー!


「しかしまわりこまれてしまった!」……知っているか、死の化身からは逃げられない……。

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