子育て勇者と魔王の子供・63.6
今回は予告のような閑話です。オーラがヒロインに選ばれていたら、も少し早く出番のあった「ヤツ」が動き出してます(笑)
彼は思う。
可愛い妹に手を出した奴がいる、と。
彼は思う。
この世の中で一番かわいい俺の妹を、たぶらかした奴がいる、と。
彼は思った。
妹をだまくらかした最低男に、天誅を!
「オーラ……待ってろよ、今兄さんがお前を騙した男に天罰を下してやるからな……」
不穏な呟きを、聞いていた者がいた。
「おー、面白くなってきたのね♪」
「なんだ? ミミユ、何かあった――ああ、そう。彼女の兄が来るの。これはまた面白いことになりそう。ユーヤくん。頑張ってくれ」
相変わらず、ヒマなのだろう、覗き……もとい、神たち。
田舎に帰った勇者は知らない。
トラブルが近づきつつあることを。
「おかーさん、きょうはおしごとじゃないですか?」
イリアの声に、母は艶やかに微笑んだ。
「うむ。仕事だよ、イリア。しかしな、母はその前にやらねばならないことができたのだ」
娘と息子の頭を撫でて、死の化身は微笑む。
「戦でもあるだろう? 先手必勝と!」
……不穏な言葉だが、子供たちは喜んだ。
「なにすんのかわからねーけど、かーちゃん、かっこいい!」
「なにするのかわかりませんけど、おかーさん、かっこいいです!」
背景では、元魔王がベッドで唸っている。それさえなければ親子のほのぼのとした対話であったのだが、背後からのうめき声で台無し。
「……ご母堂様、魔王様の看病はなさらないので?」
恐る恐るぽちが言う。
「このくらいでは死なんよ。死にかけるのが地上で一番うまい男だからな。裏を返せば、地上で一番しぶとい男だ。この間病で死んだのも、四天王と四日徹夜でアホな話をしていたせいだ。一日や二日程度でどうにかなるような簡単な男なら、魔王になどなれていない」
あっさりと言い切って、妻は夫を見た。しばらくそうして、瞳を細める。
「うむ。まだあと四日は保つ。もし死んでも職権乱用するので心配は無用だ」
死の化身、また職権乱用する気満々である。
「イリア、イリック、父の看病を一応頼む。あの青年も少ししたら来るだろう?」
「たぶんくるとおもいます。おにーさんはわたしとイリックのこもりなのです」
「おれ、きょうも、うしのとこいきたいな」
勇者の訪れを待ち焦がれる双子に、母は笑いかけ、もう一度頭を撫でて家を出た。
向かう先は、お隣。
親友であり、勇者の祖父母の家。
短い閑話です。あっちとこっちで動きが!
がんばれゆうしゃー(何度目かの棒読み)




