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子育て勇者と魔王の子供  作者: マオ
74/117

子育て勇者と魔王の子供・63.5

 ヒロインに関して、たくさんのご意見ありがとうございました。

 三日待って五件くらいご意見もらえたら嬉しいなーと、のん気に構えていましたら、予想の六倍くらいのご意見が!? 驚きながらも嬉しく感じております。

 皆様のご意見を取り入れて、幼女押しが一番多かったので幼女がヒロインになりました。イリア頑張れ。その他の女性陣、ごめん。

 仕事を終えて帰ってきた母親に、双子はまず今日一日の話をした。母親が返ってきたのと入れ替わりに、ユーヤは帰っていった。しばらくは実家暮らしをするらしい。そのうち、どこか空家にでも一人で暮らすつもりなのかもしれない。

 父親はまだベッドで唸っている。氷のうを乗せて放置だ。意識が戻らないと食事もできないのでしょうがない。

「おかーさん、わたし、おにーさんにぷろぽーずしてきました。しょうらいけっこんしようとおもってます」

 がしょん。茶の入ったカップが音を立てた。

「……うん、今ものすごく重大な話を聞いた気がするよ母は。イリア、もう一回言って御覧」

 無表情で動揺する死の化身だ。死を司る存在なんぞを長年やっていると、表情を出すのが難しくなるのだが、娘の爆弾発言を聞いてもまだ無表情。表情筋が壊死しているのだろうか。

「おにーさんにぷろぽーずしました! しょうらいけっこんしようとおもってます」

「………………ああ、イリック。母は非常に大事なことを訊きたい」

「なに? かーちゃん」

「あの青年は、イリアを花嫁にすると言ったのかな? 旅の間にでもそういう話はしたかい?」

 勇者と呼ばれるくらいの男だが、もしかして幼女趣味だったのか。とんでもない変態に子供を預けていたのかと、うすら寒くなった母である。仮定の話として、そういう変態だったのなら、明日の朝すぐにでも自分の職場に連行して、曲がった性根を叩きなおしてしまおうかと思う。

 スープの肉をよく噛んで飲み下してから、イリックは口を開いた。

「ううん。してない。あれだよ、ほら、イリアのか、か……かたおもい!」

「はつこいではありませんので、みのらないことはないとおもいます」

 ぐっと小さなこぶしを握る幼女、四歳。母親、長く別居していたことを強く後悔した。可愛いわが子らのことを、ほとんど知らない。というか、初恋は実らないという俗説なんて、どこで聞いたどこで知っただれが教えた。いや多分あいつらだという見当はつくけれども。

「うん、それも初耳だよ。初恋じゃないのかその年で」

 是が非でも聞かなくてはならぬ。可愛い娘の初恋の相手。

「はつこいはいちねんまえにすませました。あわいこいでした」

「相手は誰かなー?」

 無表情に問いただす。声だけが柔らかいのが余計に怖い。

「わたしてきにはくろれきしなのでいいたくありません。もくひけんをこうしします」

「イリア。母に黙秘権は通じない。さ、お話して?」

「おにきすだよな」

 と、イリックが簡単に吐いた。


 イリアは可愛らしい顔を思い切りしかめている。本当に思い出したくないようだ。

「くろれきしです」

「うん、おれもそうおもう。おにきすがはつこいって、ないわーっておもった」

 四天王、そんな扱い。ぽち以下かもしれない。しかし、イリアの初恋は確かに四天王のひとりだったのだ。

「みっかめでわれにかえって、おにきすじたいをなかったことにしようとしたです。おとーさんとだいやもんどがなみだめでとめましたからやめましたけど」

 イリアの初恋、三日で我に返ったらしい。そしてその対象を消そうと目論んだ、と。それは本当に初恋だったのか。この場の誰も突っ込まない。

「そうか……で、今は勇者の彼なのか」

「おにきすよりずっとまにんげんです。しょうらいせいもゆたかです。まもののわたしとイリックにもやさしかったです。きゅうにおしつけられたのに、にげませんでした」

 イリックが頷く。

「にーちゃん、おれとイリアのためにすげーいっしょうけんめいだった。いまもべんきょうすげーたのしくおしえてくれてる!」

 ぐっと、母親に向けてイリックは親指を立てる。

「イリアがにーちゃんとけっこんしたら、おれもにーちゃんときょうだいだよね、かーちゃん!」

「うん、間違ってない。間違ってないが……母は少し考えることができたよ、イリア、イリック」


 無表情のまま、母は父の寝ている部屋へと視線を向けた。

「あとで父とものすごくいろいろなことを話し合わないといけないようだ」

「あ、なんかおにーさんもそんなこといってました」

「うん。おれたちのきょういくにかんして、せっきょうするとかいってた。とーちゃんがたおれてたからやめたみたい」

「おかーさん、わたしはおにーさんのそばにすみたいです。りこんするならおとーさんをおいだしてください」

「あ、おれもー。とーちゃんはそらとべるけど、にーちゃんはとべないもんな! ならにーちゃんのそばにすみたい!」

 ドライな子供たちの頭を撫でて、母は無表情のまま頷いた。

「離婚はしないから安心しなさい。そういう言葉がぽんぽん子供の口から出てくることを、父に問いただしたいだけなのだ」

 あの青年もおそらく同じことを考えていたのだろう。

 そこだけを見ても、娘は見る目があると感じた母だ。

 少なくとも、魔王になるような馬鹿とツレアイになった母よりは、よっぽど男を見る目がある。


「うむ。本気なのかな、イリア?」

「ほんきです」

「大きくなっても、その想いは変わらないかい?」

「かわらないとおもいます」

 娘はまだ幼い。これから先の未来で、気持ちが変わることだってありえる。

 しかし、可愛い娘が言うのなら。可愛い息子が言うのなら。

 母は全力で応援しよう。

 あの青年、面倒見はすこぶる良い。ぶっ倒れた元魔王を看病するあたりなんぞ、お人よしの極致だ。

 何よりも、魔王を倒して世界を救おうとしたのだから、面倒見が悪いわけがない。

「イリア、本気なら母は応援しよう。しかし問題は年の差だ。彼はもうお年頃。誰かにとられてしまう可能性だって高い」

 現に彼の周りには女性が溢れている。しかも美人が多い。娘に敵が多いと言うことだ。

「だからつねにいっしょにいます!」

「おれとイリアでじゃましてんの! にーちゃんにほかのおんなはちかよらせねー!」

「なるほど。よし分かった。そのあたりは母に任せておきなさい」

 と、母は豊満な胸を叩く。双子は目を輝かせて、味方になってくれた母に言う。

「にーちゃんにちかづくおんな、けすの?」

「めいかいいきですか?」

「……うん、今父をたたき起こして、即座に殴り倒そうかと思ったが、まあいい。可愛い私の子供たちよ、母は確かに死の化身だが、いきなり問答無用で死人にする気はないよ、さすがに」

 ぽんぽんと子供たちの頭を軽くたたいて、母は一度頷いた。

「……うむ。既成事実が一番だろうな」


そういうわけで、イリアがヒロインです。そして一番おっかないおかーちゃんが味方になりました。怖。

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